フェルドマン式知的生産術
【作者】
ロバート・アラン・フェルドマン
【あらすじ・概要】
知的生産性を高めるための「7つ道具」を紹介。
直線的に追加されていく、足し算の能力と、面積として積分されていくかけ算の能力があるという話。足し算の能力は強いところを伸ばせばいいが、かけ算の能力は弱いところを補う必要がある。以下に挙げる能力はどれも書くことができないかけ算の要素だという認識。
1.分析力
データや事実の羅列ではなく、そのなかから意味を見出す能力。データを見ていてもそこに意味を見いだせるかどうかが重要。数字を見るか、物語で見るか という横軸と、事実を強調するのか、関係を強調するのか という縦軸で4項目に分けて分析方法を選ぶことを紹介している。
2. プレゼン力
自分の意見を他人に伝える能力。簡単な言葉ほど伝わりやすい。相手に合わせて使う言葉を変える工夫も必要。
3. 人間力
意見の違いを乗り越えて、意見を伝え交渉を成立させる原則を紹介。基本原則として紹介していたのが、以下の4項目。
① 人と問題を分けて考える
② 姿勢より利益を強調する
③ 双方の利益となるようにする
④ 効果を測定していく
4. 数字力
数字で客観的に考えることの大事さを述べる。経営者などは成果が明確になることを嫌い数値目標を避けることがあるが、客観的は評価は必要。一方で数字は下品なものになりうるので、数字を使って考えても相手の前には数字を出さないという配慮が必要な時もある。
5. 時間・エネルギー管理力
人生の目的が明確でそこから逆算することの大事さを述べている。きちんと選択して集中すること。体力や健康の管理にも数値管理の考え方を取り入れることも提案。
6. 言語力
言語力を高め、世の中のハブとなることが戦略的に優位であると述べている。ゲーム感覚で楽しみながら、新しく出てきた機器も活用して勉強することを推奨している。
7. 商売力
誰が自分の顧客なのか、顧客は何に対してお金を払ってくれているのか、熟慮する必要がある。信頼の方程式として T=(E+R+I)/S をあげていた。信用は専門性と約束を守る態度と親しさの合計を利己性で割ったものということ。
8. 結合力
上記の7つ道具に加え、それらを結合して価値を生み出すことの大事さを述べる。
【感想・考察】
非常に分かりやすく説明されていた。最後の方まで外国人が書いていると気づかなかったほど日本語が上手で、数学的な説明でも分かりやすさを増していた。アナリストだけあって特に分析の手法については非常に深い話であった。
端的に言って、「役立つ本」だった。
天久鷹央の推理カルテⅣ 悲恋のシンドローム
知念 実希人
完全にラノベの医療ミステリ。
散りばめられた医学トリビアは面白い。ミステリとしてみると伏線の置き方などが当たり前すぎて、謎をとく面白さという意味では物足りないが、トリックの中心が必ず医療知識となっているのはすごいと思う。
最近のラノベは、ヘタレ男と特殊能力系少女の組み合わせが多いのだろうか。ヘタレ男に感情移入しやすい層が読者の主流なのかもしれない。
天久鷹央の推理カルテⅢ 密室のパラノイア
知念 実希人
ラノベとして書かれた医療ミステリ。3話の短編が収められている。
主人公たちのキャラクタは完全にラノベのノリだが、ちゃんと医学知識をベースにしたミステリになっている。最終話は王道の密室ものできちんんとプロットが練られている。
気軽に楽しめる作品だ。
エッセンシャル思考 最小の時間で成果を最大にする
グレッグ・マキューン
本質を見極め、「より少なく、より良く」を提唱する本。
目的を持つことが大切だ、方向性を定めることが大切だ、シンプルであることが美しい、と自分の考え方に完ぺきに嵌る本だった。
学習性無力感で選択することを手放してしまう人もいるが、自分で選ぶことは自由であることで、誰かに決断を委ねることは自由を放棄することだ。
重要なことはほんの僅かしかなく、忙しくしていても重要なことはほんの数%で、そのほんの僅かが大部分の成果を生み出している。本質的なものを見極め、それ以外を積極的に捨てていく。
「やらなくては」ではなく「やると決める」
「どれも大事」ではなく、「大事なものはめったにない」
「全部できる」ではなく「何でもできるが、全部はやらない」
この3つの決断が私たちを混乱から救い出してくれる。
この一節が心に深く響いた。
何かを選ぶことは何かを捨てることで、まあまあ良さそうなチャンスを棒に振るのは心苦しいが、そのために最高に良いチャンスのためのスペースがなくなるのは最低だ。
最高のものを求め続ければ、そこに至る可能性もあるが、途中でまあまあ良いものを拾い、両手がふさがっていては最高のものに永遠に手が届かない。
非常に視差の深い本であった。
久々に再読したいと思う。
なにかのご縁2 ゆかりくん、碧い瞳と縁を追う
野崎 まど
前作からの続き。
フランスから来た高校生縁結びストローランと、年老いた縁結びうさぎのユリシーズが絡んでくる。
今回の話で一番印象的だったのは、先輩と漫画になりたいという夢との絆を切る話。
自分の本気の作品が受け入れられず、自分の能力の限界を見るのが怖くて、自分で言い訳ができるレベルの中途半端な作品しか書いてこなかった先輩が、その話の主役。
社会に出て数年経ち、恋人が背中を押したこともあって、初めて本気の作品で勝負をかけてみたがあえなく撃沈、漫画をあきらめ、恋人と一緒に地元に帰って暮らすことを決意する。
縁結びのうさぎは、先輩と先輩の夢を結ぶ綻びた縁を切って、先輩を苦しさから解放した。
表現をしなければ他者からの評価を受けることもなく、自己の可能性は無限だと感じていることはできる。ただそこを踏み出して、他者の評価を受ける覚悟がなければ何も生み出せない。他者に自分のできることを晒してこそ、自分のできることが見えてくるし、自分の成長が果たせるのだろう。
この作者は作品を作り表現することに徹底的に真剣なゆえに、そういう勇気すら持てなかった先輩に厳しい現実を見せているのだと思う。
それでも自分の殻の中で完ぺき主義を貫く態度から一歩踏み出したことは、大きな成長の一歩で、何かを表現することを生業としている人はもちろん、どんな立場の人にとっても必要なことなのだろうと感じた。
なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る
野崎 まど
アムリタから2へ繋がるシリーズを読み、野崎まどの著作に感銘を受けたが、この作品は尖った部分がなく、違った作風でまた違う魅力を持っていた。
典型的にラノベ的な文体であっさり読みやすいのは、他の作品と同じだが、人の業や内面の闇に深く降りていく部分はなく、人と人の繋がり、縁を暖かく描き、まっすぐに感動させにくるストーリだった。
縁を司るうさぎと、縁が見えるようになった主人公が、恋愛の縁、友情の縁、家族の縁に触れ、死者との縁に絡みとられた人を救い、人と人の縁の暖かさ、人への信頼を描いていて、暖かく優しい読後感を味わえた。
この作者の作品は自分の好みのど真ん中にくる。
この社会で闘う君に「地の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義
池上 彰
著者が東工大の理系学生にリベラルアーツの講義をした内容を書籍に起こした本。
池上彰の著作だけあって非常に分かりやすいし、学生の反応も興味深く、通常の書籍とは違う面白さがある。
日本が戦時中に原爆の開発に着手していたことなどは、全く知らなかった。もし日本がアメリカより早く原爆を開発していたら歴史が変わったのかもしれないとも思う。
また憲法改正についての講義は最近の安倍政権の動きから非常にタイムリーな内容。現行憲法の成立過程、自衛隊の成立過程など知っているつもりでも、時系列を整理して説明されると理解が深まる。憲法改正に対しどういう態度を取るにしても、歴史を知り、現在を知ることは必要だと思う。
また北朝鮮の3世代に渡る金政権の成り立ちも、最近の北朝鮮情勢を理解するのに役立つ知識だった。この本が書かれた2012年当時からみても金正恩の動き方は大きく変わっているようだ。日本人の大多数は北朝鮮に実際に訪問したこともなく、報道で得た知識のみで判断しているので、実際に現地を訪問した池上氏の話を聞けるのは貴重だと思う。池上氏自身も相当バイアスのかかった見方をする人だと感じてはいるが、自分自身が実際に触れることができないものを判断するときは情報ソースは少しでも多角的である方がましだと思う。
2012年以前に行われた講義だが、最近の社会動向を理解するのにも役立つ内容だった。