『ジウⅢ 新世界秩序』 誉田哲也
「ジウ」シリーズ3冊の最終巻です。
事件が大掛かりになり雰囲気が変わってきましたね。ダイナミックな展開です。
タイトル
ジウⅢ 新世界秩序
作者
誉田哲也
あらすじ・概要
連続誘拐事件の黒幕「ジウ」を追う、門倉美咲と伊崎基子二人の刑事。
本作は「ジウⅡ」で銀行の爆破テロがあった後の話。
東弘樹と門倉美咲は事件のあった銀行の監視カメラ映像を調べ、ジウと似た男が爆発した場所にバックを置いていたことを発見し、連続誘拐事件とのつながりに気づく。
銀行の爆破で多くの隊員を失ったSATは、転属となっていた伊崎基子を班長として呼び戻した。以前とは変わってしまった基子の様子に違和感を抱いた小隊長の小野は東と美咲と話をする。
覚せい剤の販売と不動産投資で莫大な富を蓄えた ミヤジは ジウも仲間に引き入れ、新しい世界秩序(NWO)の実現を目指していた。基子はミヤジに取り込まれ、自分の警察内部での異動にもNWO意向が反映されていることを感じ取った。
基子が率いるSAT班は、新宿駅前の選挙応援演説に現れた総理大臣を拉致し、歌舞伎町を封鎖して内部に立てこもった。NWOは総理大臣を人質に封鎖された歌舞伎町エリアの治外法権を要求する。
感想・考察
話がずいぶん大きくなった。
警察内部の状況や、登場人物の内面などを丁寧に描く姫川玲子シリーズなどとは、作風がだいぶ違っていいる。リアリティは弱いが派手なストーリーだ。
前巻で仄めかされていた「新世界秩序」は、既存社会の矛盾を壊すような魅力を感じさせたが、ふたを開けてみると粗っぽい無政府主義で、大量の武器と麻薬の投入の影響もあって、力が支配するグロテスクなものだった。
ジウの犯行動機もミステリアスだったが、エピローグで推測された理由は単純で分かりやすいものだった。
ミヤジもジウも、単純な願いを実現させたいだけなのだろうが、そこから起こす行動が社会の常識を外れ飛躍している。二人とも何かが欠けている。広げた風呂敷に対して「なんだ、こんなもんか」という落差が大きいほど、その欠損の大きさが感じられる。
ベタではあるが、伊崎基子 門倉美咲が与えようとした「無条件の愛」が、彼らの欠けている部分を埋めるということなのだろう。