魚
【作者】
ヤマダマコト
【あらすじ・概要】
新潟を舞台とした2編の幻想的な短編集。
・魚(いよ)
母親の再婚を機に祖父母の住む新潟に引っ越した女子中学生の美咲。転校先の中学校で学校で浮いている少年純也と出会い惹かれていく。
ある日夢で「イヨの王、今のぼる」という不思議な声を聞く。
「イヨ」とは方言で魚を意味する。当地に伝わる「大助小助」の民話として、鮭の王のである夫婦の神、大助と小助が鮭の大群を引き連れ川を上り「鮭の大助今のぼる、鮭の小助今のぼる」という声が響き渡り、それを聞いたものは帰らぬものとなる、という話が伝わっている。
とある事件で純也を失った美咲は、イヨを呼ぶ声を聞き、川に導かれる。
・はるかぜ
子役として人気を博した風間遥は16歳の誕生日を迎えたが、人気の陰りから生きづらさを覚え、思いつきで川に身を投げ自殺を図る。
肉体を離れた遥の魂は、シェオルという少女から「一度だけ人間以外の生き物に生まれ変わるチャンスをあげる」と言われる。
遥はカラスとなり、人間社会を外から眺める。生まれ変わっているのは1日間だけと言われていたが、生まれ変わった魂自体はシェオルが迎えに来るまで、同じ日を何度も繰り返していた。小学生の時に死に数千回同じ日を生きているネズミのタクや、交通事故で死んだナナエと出会い、4月13日を何度も繰り返していく。
【感想・考察】
天下シリーズでこの作者を知ったが、本作は大分雰囲気が違う。
タクの両親の話などホラーのような怖さもあるが、一方で息子に寄り添うナナエと彼らに救われる遥の姿など、柔らかく暖かい部分もある。人が人ならざるものに姿を変えて、人の世を少し離れて俯瞰するのが、ものすごく寂しく感じさせられる。独特な雰囲気に満ちた作品。