毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ

【作者】

 大崎 梢

 

【あらすじ・概要】

 「配達あかずきん」に続く、成風堂書店シリーズ。途中に番外編として「晩夏に捧ぐ」という作品もあり、発表順で言うと第3作。

 「配達あかずきん」と同じく、「杏子」と「多絵」が、成風堂の周辺で起きた事件を解決する連作短編集の形式をとっている。

 

・取り寄せトラップ

 4人から取り寄せを依頼された本が入手不可能で電話連絡をしたところ、4人とも注文はしていないと言う。同じ4名の名でまた偽の取り寄せ注文が入り、何者かが書店を利用しメッセージを送ろうとしているのではないかと思い至る。

 ある女性が店に現れ、「亡くなった祖父に関わることで知り合いが書店を利用しているかもしれない」と訴えて来る。多絵は4人の関係者の行動を読み、謎を解いていく。

 

・君と語る永遠

 社会科見学で成風堂に来た小学生の少年が、書店で使われる言葉に強い興味を示し、「広辞苑」にも関心を持つ。社会科見学のあとから、少年は時々書店に来て本を眺めるようになった。同じ頃、近所で年少者による幼女誘拐が発生しており、一人で行動することが多く、人間関係が不器用な少年が疑われてしまう。杏子と多絵は少年が書店に関心を持った理由に気づき、少年に伝えようとした永遠の願いを見る。

 

・バイト金森くんの告白

 成風堂でアルバイトをする金森くんが、飲み会の場で書店で恋に落ちたことを告白する。雑誌の譲り合いで知り合い、少しずつ話をするようになったが、彼女には長く付き合っている彼氏がいることを洩れ聞き落ち込む。ある日、雑誌の付録をもらうが「ストーカについて」の特集号の付録だったことから、ストーカー認定されたと感じ完全に打ちのめされる。多絵は金森くんの話を聞き、その矛盾に気づく。

 

・サイン会はいかが?

 成風堂書店で新進ミステリー作家によるサイン会が計画される。それほど規模の大きくない書店としては大きなチャンスだが、サイン会を開くための条件が、ミステリー作家の熱烈なファンである「レッドリーフ」が誰であるのかを調べ出すことだった。多絵は作者の元に送られたメモや、作者の過去の作品から「レッドリーフ」の招待に迫る。

 

・ヤギさんの忘れもの

 とある老人が成風堂のパート社員に写真を見せたいと持って来たが、パート社員はすでに退職したあとだった。落ち込んだ老人は帰り際に写真を忘れてしまう。多絵は写真のありかを推理し、思い出をつなげていく。

 

【感想・考察】

 書店での仕事の大変さが具体的に伝わって来る。前作と比べて、杏子、多絵や店長などのキャラクタが明確になり、掛け合いを見るのが非常に楽しい。多絵の頭の鋭さと性格のまっすぐさ、不器用さなどが魅力的に描かれている。

 全て書店に関するミステリーだが、「サイン会はいかが?」の暗号は実在しない本のタイトルをキーにするなど、暗号だけをいくら考えても解けないのは少し残念。

 最近は電子書籍ばかりだが、たまには書店に行って本を買いたいと思わされる本。

 

自由論

【作者】

  ジョン・スチュワート・ミル

 

【あらすじ・概要】

  19世紀初めのロンドンに生まれた功利主義哲学者による著作。功利主義的観点から自由論を語る。

 

 ポイントとなるのは以下の二つ。

・「個人は、自分の行動が自分以外の誰の利害にも関係しないかぎり、社会に対して責任を負わない。他の人々は自分たちにとって良いことだと思えば、彼に向かって忠告したり教え諭したり説得したり、さらには敬遠することができる。彼の行動に嫌悪や非難を表明したくても、社会はこれ以外の方法を用いてはならない」

・「個人は、他の人々が利益を損なうような行動をとったならば、社会に対して責任を負う。そして、社会を守るためには社会による制裁か、もしくは法による制裁が必要と社会が判断すれば、その人はどちらかの制裁をうけることなる」

 この二つを公理として、いかにバランスをとるかを語る。

例えば、「他人に迷惑をかけない限り、麻薬や賭け事を禁止すべきではないのか」、など現代でも討議されるような限界例を語る。ベンサムの功利主義論では、「父権的干渉」として人々が愚かな行為で自らを不幸にすることがないよう干渉することを認める方向に寄りがちだが、一方でミルは、自らが幸福を追求する「個性」を発展させることを提唱する。その上で、私的領域と公的領域を厳密に区分することを提唱し、例えば「賭け事で堕落した生活をするのは私的領域だが、子供の養育に障害が出るなら公的領域だし、賭博を開帳するのも公的領域」というように考える。

 

 「思想・言論の自由」についても功利主義的な観点から必要性を語る。

・発表を封じられることで真理が見つからないかもしれない。

・間違った意見だとしても部分的な真理を含んでいる可能性がある。

・世間一般で受け入れられる意見も活発な議論がなければ、大多数の人は合理的な根拠を知ることがなく、確信を持つことができなくなる。

 というように、利があるので「思想・言論の自由」は尊重すべきという立場。

 

 また、官僚組織が強すぎることにも警戒している。活発な意見のぶつかり合いがないところは停滞腐敗していくという考えから、官僚組織の外にも優秀な人材を配置し、相互が切磋琢磨していくような政治体制を理想としている、

 

【感想・考察】

 議会制民主主義が成立し、多数派による数の暴力が現実的問題となった時期の著作だからだと思うが、少数意見が封殺され「衆愚的」な 体制に陥ることに対して警鐘を鳴らしている。また、プロテスタントのキリスト教的道徳観が通底しているが、とはいえ盲信・盲従すべきではないと語る。

 おそらくミルが本作を著した時期よりも、現代の方が交通・通信が発達し、世界規模での平準化・没個性化が進んでいると思われる。また、優秀な知性の一極集中も歯止めなく進展している。「個性」のぶつかり合いが大事、間違った意見でも多様性には価値がある、という考え方は現代でも生きるのだと感じる。

 

 

 

なぜ、あの人の周りに人が集まるのか? 仕事もお金も人望も、すべてが手に入る「大切なこと」

【作者】

  滋賀内 泰弘

 

【あらすじ・概要】

 商売でもそれ以外でも、良い関係を作るために「大切なこと」をストーリー仕立てで語っていく本。

 MBAを取得しマーケティング理論に精通した主人公「ユカリ」は、就職したスーパーで現場仕事が続くことに嫌気がさし退職してしまう。仕方がなく父が経営するコンビニで副店長として働くが、競合店が近くにできてから売上は落ち込み続けている。「マニュアル」通りのオペレーションを徹底し業績回復をめざすユカリだが、空回りが続く。

そんなコンビニに70歳を超えていると思われる「オバチャン」がアルバイトとして入る。最初はスローでマニュアルに従わないオバチャンの働き方に苛立ちを覚えるユカリだったが、徐々に接客・対人コミュニケーションをオバチャンから学び始める。

 ポイントとしてあげていたのは以下のような項目。

 ・相手に関心を持ち、相手の望んでいることを「言われる前に」提示する。

 ・「お節介」と「親切」の境界は、受けた側の主観次第で分からないが、お節介になることを恐れていては、親切を施すことはできない。恐れずにお節介をしていくことで、お節介と親切の境界が徐々に見えて来るようになる。

・「トイレが綺麗」は万事が整っていることを表す。

・与えれば返ってくる。直接ではなくても返ってくる。「返報性の原理」から受けた好意に何か返さなければと考えるのが大多数の人間の思考。

・相手を理解しようという気持ちが乗っかれば、「ありがとう」は伝わる。通り一遍のマニュアル的な「ありがとう」はむしろ邪魔に感じることもある。

・マニュアルは最低限のラインを示す。そこをベースに何を積み上げることができるかを考えることで、仕事の筋力がつく。

・「思いやり」がサービスの原点。相手が困っていること、望んでいることを解決しようという気持ちがなければ、サービスは形だけになってしまう。

・お客の立場でも偉ぶらない。人は「買う立場」、「売る立場」の両方をもっている。業者に対して高圧的な態度を取ることは決してプラスにならない。

・努力をあと一歩持続することが大事。行動量がある閾値を越えると一気に成果が出始める。正しい方向性の努力をしているか検証することは必要だが、成果が出ないからといって中途半端なところで諦めてしまうのは勿体無い。

 

【感想・考察】

 商売の倫理として、「当たり前」のことを述べているが、実践するのは難しい。当たり前のことを当たり前に実行していくことが大事だが、それは本当に難しい。

 この作品は小説としてストーリーになっているため、全てがうまく行きすぎると感じるところもあるが、内容は理解しやすく感情に訴えかて心に刻まれる。できる部分を一つでも二つでも実行してみようと思う。

 

青い月の夜、もう一度彼女に恋をする

【作者】

 広瀬 未衣

 

【あらすじ・概要】

 夏休みに京都の祖母の家に行った高校生の「圭一」が、一月に2度満月となる「ブルームーン」の時に、森の奥の泉で「沙紀」と出会う。月初のブルームーンの4日間の夜、圭一は沙紀と会い強く惹かれていくが、沙紀は「初恋の人」を待ち続けていることを知り、沙紀の幸せを考え身を引き、京都を離れ東京に戻った。

 東京で日々の生活を送る中でも、沙紀の存在は心の中で大きくなり続ける。祖母の言葉から、急遽京都に向かい、あの日の沙紀に会いにいく。

 

【感想・考察】

 伏線が張り巡らせられた展開や、主人公の感情の動きは恋愛小説として十分面白いが、この小説で一番心惹かれたのは、青い月光に染まった京都の夜の風景の描写だった。嵐山の澄んだ夜空に差し込む青い月光や、賑やかで静かな夜の街に何故だかノスタルジアを感じる。

 

 

ブルースをうたう三本足の犬

【作者】

 いしい しんじ

 

【あらすじ・概要】

 「皮ぶくろ」と名付けられた三本足の犬が、人間の声でブルースを歌い出す。「ソラ」、「キキキ」、「ハンスー」とバンドを組み、世界中を回りライブ演奏をする。とある富豪が「皮ぶくろ」に用意した「ジュークジョイント」会場で最後の演奏をする。

 

【感想・考察】

 「ブルースをうたう三本足の犬」というタイトルは比喩ではなく、そのまま「歌う犬」の話だった。少し平仮名が多くて引っかかりやすい文体や、「皮ぶくろ」が歌う垢抜けない歌詞や、脇役も含めた登場人物の生き様も、「ロック」で「ブルース」な感じが溢れ出してくる。文章だけでロックを感じさせることには感嘆した。文章の世界は深い。

 

螺旋の手術室

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 外科医である主人公は、自分の父親の手術助手として参加していたが、簡単な胆嚢の手術であるにも関わらず、出血が止まらず亡くなってしまった。父は主人公も務める病院での次期教授候補であったが、他の候補者も数ヶ月前に暴漢にあって殺されていたことが分かる。その直後には次期教授を選任する立場である現教授が、不自然な心臓発作で亡くなり、次期教授選を巡っての連続殺人ではないかという疑いが深まる。

 主人公は、次期教授選候補者を調べていた探偵の足跡を追い、誰が何のために何をしようとているのか探っていく。

 

【感想・考察】

 知念氏の作品だけあって医療知識がふんだんに使われているし、犯人の動機にも病気が関わってくる。ミステリーとして完成度が高い上に、主人公の妹との確執、祖母と父親が直面した世界の残酷さ、不幸な少年時代を過ごした父の子供に対する不器用さ、など、様々なテーマが作者の冷静で優しい視点で語られる。

 安定の良作。

 

まんがでわかる 地頭力を鍛える

【作者】

 細谷 功

 

【あらすじ・概要】

 「地頭力を鍛える」を漫画で解説した本。家具メーカのOLが同期から「地頭力」を鍛え使いこなす方法を学び、崖っぷちの状況から重要なプロジェクトを任され成功させる。

 

・思考停止に陥らない

 AIやクラウドコンピューティングの発達で、「知っていること」、「既知の情報を組み合わせ、定型的なアウトプットを出す」ことの価値は下がり、「非定型の問題に対し、考えて結論を出す」ことの重要性が高まっている。

 「知的好奇心」がベース、「論理的思考」と「直感力」がその上に乗る。「仮説思考力」、「フレームワーク思考力」、「抽象化能力」が手段として必要になる。

 

・結論から考える

 フェルミ推定の話で、完璧主義に陥らず、まずは大雑把でも目処をつけ転がし始めることが大事だとする。全ての条件が揃うことなどあり得ず、とりあえずの答えを出すことが必要。

 

・全体から考える

 フレームワーク思考を使い、全体から部分を考えるようにする。フレームワークはそこから外れた尖ったアイディアを拾えないという弱みはあるが、通常の範囲ではメリットの方が明らかに大きい。自分の思考の癖、思い込みから狭い範囲に止まってしまうリスクを回避する。

 

・単純に考える

 具体的な事象の枝葉を切り落とし抽象化する。抽象的な問題に対する本質的な解決を考える。抽象的な解決を具体的な施策に落とし込んでいく。

 

【感想・考察】

 ストーリー部分を除くと、元本と同じメッセージ。ただ、元本の発売から20年が経過し、ITの進展による「単純な知識の蓄積」価値は下がり、「問いを作る力」と「不十分な情報から、考えて結論を出す」能力の必要性は当時よりずっと上がっている。相当の線形の名があったと言える。

 内容自体は同じなので、復習として読み直す感じ。元本を未読の人にとっても、理解しやすい構成になっている。 

 

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