不確定世界の探偵物語
【作者】
鏡明
【あらすじ・概要】
ノーマン・T・ギブソンは、タイムマシンによって過去が書き換わってしまう世界で、私立探偵を営んでいた。
「ワンダーマシン」と呼ばれるタイムマシンを管理し、世界のコントロールしているエドワード・ブライズが、自分に干渉している敵を探るようノーマンに依頼する。
ブライズが送り込んで来た、ジェニファーと共に常に変わり続ける世界で起こる事件を解決し、自分自身の因果と戦っていく。
【感想・考察】
タイムパラドックスを描いたSF小説だが、過去を変えれば現在も変わる、変えられた時間と変えられなかった時間が並列し、人々は記憶を微かに残しながら「アザータイマー」として別の時間軸に移っていく。
タイムマシンというよりは「多重宇宙」の中でより良いものを選んでいくイメージなのかもしれない。世界を認識する主体としての「人」の記憶は、別の時間軸に移ってもリンクしている。完全に独立した並行世界ではなく「人」の認識をエネルギーとした相互干渉が起こっている多重宇宙なのだろう。
SFとしての設定は面白いし、主人公ノーマンの視点で描かれた「確かなモノがない世界」での人々の生き様は興味深い。因果関係がなくなった世界で「努力して何かを生み出す」ことの価値がなくなり退廃的な雰囲気もあるが、因果を超えて強く生きようとする人々の強さもある。
なかなか新鮮な作品だった。