Kennie の読書録

毎日1冊本を読み、記録を残したいと思います。

青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale light?

【作者】

 森 博嗣

 

【あらすじ・概要】

 Wシリーズの6作目。原子力潜水艦に備えられたコンピュータ「オーロラ」は北極海の海底で、人工知能として学習を続けていたが、長らく動きを止めていた。「オーロラ」は何らかのジレンマを抱えており暴走することも懸念されたため、マガタ博士の要請を受けたハギリとウグイが「オーロラ」との接触を試みる。「オーロラ」は対話を拒み潜んだままだったが、北極に浮かぶ月を見たハギリは、自分が追い求めている生命の本質に迫る研究と、「オーロラ」が抱えている想いが同じ方向を向いているのではないかと気づき手紙を出す。最終的にハギリたちの前に「姿」を表した「オーロラ」は、人工知能も人間も超越したものだった。

 

【感想・考察】

 Wシリーズの舞台装置は一貫して「生命とは何か」、「知性とは何か」、「人工的な知性や生命を作り出すことはできるのか」 という問いかけに使われている。「人工細胞を使い生殖能力を失った人間」、「有機的な人工細胞を使った人造人間であるウォーカロン」、「数十年にわたり学習を続けてきた人工知能」、「ハードウェアの束縛からものがれた人工知能であるトランスファ」など、SF的な設定ではあるが、どれも現存する生命・知性からは何かが欠損しており、「それでもこれは生命なのか」という疑問を投げかける。

 森氏は数十年前の初期作品の頃から、「発想の飛躍こそが人間の能力」という主張をしていたが、Wシリーズでは「何らかのエラーが蓄積することで、合理性からの偏向が生じ、ゆらぎ・飛躍を生じさせる。これが生命を生命たらしめている」という認識にまで消化している。人が人であるのは、思考が揺らぐからであり、人工知能であってもエラーの蓄積から生命としての揺らぎを得る可能性があるということだろう。

 また、このシリーズの魅力のひとつは、ハギリとウグイの掛け合いの面白さだが、今作ではウグイが「嬉しい」と初めて自分の感情を口に出していたのも印象深い。ウグイの立場も変わり次回作以降ハギリとの関係がどうなるのか楽しみだ。