珍妃の井戸
【作家】
浅田 次郎
【あらすじ・概要】
蒼穹の昴のスピンオフ作品。光緒帝の側室であった珍妃が義和団の乱の際に井戸に落とされ死んだ。諸外国が中国人民に対して行なった行為を調査しに来た4カ国の調査団が珍妃殺害事件の真相を解き明かすため、関わって来た人々の話を聞いていく。その中で中国の歴史の重さ、帝国主義国家の身勝手さ、人の心の温かさや浅ましさが浮き上がってくる。
イギリス、ドイツ、ロシア、日本の四人の貴族からなる調査団が、新聞記者、光緒帝に使えた宦官、珍妃の姉であるもう一人の側室、軍の実権を握った袁世凱、王家の人々に話を聞いて行くが、それぞれの証言が食い違い、誰を信じるべきか分からなくなる。最後には光緒帝本人の話を聞くことになるが、結局は自殺であったのか諸外国の侵略者に殺されたのか、嫉妬に狂った側室・皇后に殺されたのか、真相は最後まで判明しないが、ミステリ小説のように真相を追い求めることが本題ではない。
【感想・考察】
前作「蒼穹の昴」の登場人物と重なり、ストーリーも前作から連続しているので順番に読まないとわかりにくいと思う。人の弱さ、浅ましさ、高貴さが滲み出る描写はさすがだと思う。
「キリスト教は 愛を説くが、孔子は愛に言及しなかった。それは中国では愛し愛されることは、あまりにも当たり前だったからだ」と光緒帝に語らせている。キリスト教が生まれ育った地域では愛は得難いものだったのだろうか。孔子が礼を説くのは中国で礼が得難いからということはあるのかもしれない。。
「蒼穹の昴」を読み、その世界観に惹かれた人には勧められる本。