毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

白銀の逃亡者

 

 

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 DoMs感染者であることを隠し、救急医として勤務していた の元に同じくDoMs感染者である 少女 悠が訪れる。

DoMs感染から生き残る可能性は低いが、生還者は筋力や知覚能力が向上し、またDoMsウイルスを拡散可能性もあると考えられていたため、「森」に隔離されていた。「森」を抜け出した悠は兄に手紙を渡したいという。悠、兄の目的は何なのか。DoMs感染者を追う公安警察や、感染者の支援団体などが、それぞれの思惑で動く中、物語は一つに終息していく。

 

 

【感想・考察】

野卑な医者も登場はするが、根底に医療に従事する人々の良心を信じていることを感じる。それが、この作者の作品の暖かさ・すがすがしさの源泉なのだろう。

 従来の作品とは若干趣が異なり、病院の中の出来事を超えた国家レベルでの陰謀を描いているが、その中でも、兄弟や親子、上司と部下などの個人的な人間関係が丁寧に描かれていて、心にすっと沁みてくる。

キャラクタ達の美しさが心に残る作品だった。

 

 

犬にきいてみろー(「花咲舞が黙っていない」シリーズ)

【作者】

 池井戸

 

【あらすじ・概要】

 花咲舞シリーズの短編、舞の見合い相手の若社長を助ける話。

 実質的に会社を仕切っている工場長の不正告発に悩む若社長を助けるため、舞と相馬が不正証拠を掴もうと伝票の山と格闘する。工場長は最大顧客を握り前代社長の時代から会社に影響を及ぼしてきた存在で、社長の立場でもコントロールが効かない。工場長により閑職に追いやられた元経理課長の「犬に聞いてみろ!」という“暴言”から、解決の糸口を掴んでいく。

 

 

【感想・考察】

 池井戸氏の作品らしく、経営者の苦しみやサラリーマンの悲哀が描かれ

 経理会計を鍵に、分かりやすく胸がすくような勧善懲悪の展開するストーリーとなっている。

 ごく短い短編だが池井戸作品の魅力が凝縮されたような良作。

タモリさんに学ぶ話がとぎれない 雑談の技術

 

ビッグバンとインフレーション:世界一短い最新宇宙論入門

【作者】

 ジョン・グリビン

 

【あらすじ・概要】

 「ビッグバン」と呼ばれる宇宙の始まりに関する理論と、その謎を説明する初期の宇宙は指数関数的な急激な膨張を引き起こしたという「インフレーション理論」について説明した本。

 当初は荒唐無稽と思われた「ビッグバン理論」は、実測結果との合致から広く受け入れられ始めてきたが、まだいくつかの疑問が残っていた。

 一つは宇宙の「地平線問題」で、「天球の両サイドの地平線が均質であるのはなぜか」ということ。宇宙の膨張が光速を超えるなら、観測できる宇宙の限界の両端どうしは、どのような情報のやりとりもできないが、なぜ均質であるのかという疑問。

 もう一つは宇宙の「平坦性」の問題。これは宇宙が永遠に拡張し続けるモデルと、最収縮に転じるモデルの間の完全に均衡が取れた点(平坦性パラメータΩが1)にあるのか、という疑問。

 そして均質な中に銀河やエネルギーの偏在がなぜ起こるのか、もふくめインフレーション理論で説明がつく。インフラトン場(スカラー場とほぼ同義で使われている)では今私たちが理解している4つの力(重力・電磁力・強い力・弱い力)が超高エネルギー状態では統一されていた。集中していたものが指数関数的な膨張により急速に拡大したので均質性が保たれ、量子的揺らぎの残滓が銀河などのささいな偏在を起こしたという。

 

【感想・考察】

 とても短い本だが、専門性が高く入門書としては難易度が高い。馴染みのない用語があまり説明せれずに出てくるので理解が難しい。何度か再読し、同じ分野のもう少し長く詳しい本も読んでみよう。

 宇宙の始まりや、マルチバースの可能性など興味はそそられるが、正直理解が追いつかない。

 

 

地頭力を鍛える

【作者】

 細谷 功

 

【あらすじ・概要】

 フェルミ推定という限られた情報から、仮説を立て推論していく手法を元に「地頭」を鍛えていこうという内容。

 「頭の良さ」には3種類あり、①知識の多さ、②対人関係力の高さ、③考える力の強さ(地頭力)、がそれぞれに不可欠であるが、従来強みを発揮してきた ①、②の組み合わせ以上に、③と②の組み合わせが重要視されている。コンピュータ・インターネットの急速な発展で単に知っていることの意味が薄れてきたことが原因。

 地頭の良さは、知的好奇心がベースになり、論理的思考力と直感力がその上に乗る。さらに仮説思考力、フレムワーク思考力、抽象化能力が必要とされる。

仮説、フレームワーク、抽象化 はそれぞれ、「結論から」、「全体から」、「単純に」考えることに対応して行く。

 例題としてあげられた「日本に電信柱は何本あるか」という問題であれば、

「結論」に近づくために仮説を立てる。「人口一人当たりの電柱の数を敷衍する」とか「単位面積あたりの電柱の数を分解して行く」などの仮説を作る。そして自分の周りの電信柱の本数を数えるところから始めるのではなく、日本「全体」を捉えようとするところから逆算して考える。たとえば日本の人口は1.3億人で、世帯数で言えば平均的な世帯は四人ぐらいかなとか、徐々に細かく下ろして行く。そして高圧電線の鉄塔は電信柱にカウントするかとか、細かい定義などは飛ばし、大凡の結論を得るために「電信柱」を大雑把に抽象的に捉える。例えば日本の面積からのアプローチを取るにしても、日本の詳細の面積を求めるのではなく、抽象化したモデルで考える。

 そういう、「結論から(仮説)」、「全体から(フレームワーク)」、「単純に(抽象化)」考える練習をすることで、地頭力は鍛えられると結論している。

 

【感想・考察】

 少し前に読んだ、「思考の整理学」とも重なる部分が多いと感じた。(実際に引用もされていた)。知っていることで満足していては知識を有効に使うことも難しい。まずは大雑把であってもその時点で出せる仮の結論をもって進めることが大事だというのは共感できる。

 少し本筋から外れていたが、面白いと感じたのは、「流れ星に3回願い事を唱えるとかなう」のは真実だというくだり。常に「仮説」をたて、求めることを「単純に」心の中に抱き続けていなければ、流れ星が現れる1秒以下の時間で3回も願いを唱えることはできない。それだけ強く心に抱いていれば、大体のことは叶うという。それは真実だろう。

 考える力のトレーニングには確実に効果があると思われる本だった。

 

 

満願

【作者】

 米澤 穂信

 

【あらすじ・概要】

 6編の短編集。連作短編ではなく、純粋に独立した話で構成されている。

・夜警

 殉職した部下について回想するうち、「小心者」であった部下が何を思い何をしたのか思い及んで行く話。

・死人宿

 以前の恋人との復縁を願う男が、自分は以前と違うということを示そうと、元恋人が勤める温泉宿で起きた事件の解決にあたる。

・柘榴

 娘を愛する母親と中学生の姉妹の話。両親の離婚に伴う親権争いで母の通ってきた道を娘たちも通る。

・万灯

 バングラディッシュでの天然ガスプラント建設に人生をかける男が、その真剣さゆえに徐々に道を踏み外し、意外な裁きを待つ立場となる。

・関守

 都市伝説となるような怪奇譚を探すライターが、とある峠での連続死亡事故を調査する。バラバラに思えた4件の事故に繋がる背景が不気味。

・満願

  弁護士となるまで苦学を支えてくれた下宿宿の「おかみさん」の殺人事件裁判を弁護するが、「おかみさん」は旦那の訃報を聞き、控訴審への上告を拒んだ。弁護士は犯行が計画的ではなかったことを訴えていたが、服役していた間に違和感が膨らみ真相に近づいて行く。

 

【感想・考察】

 この作者の作品はどれも不気味な読後感を残す。今回の短編集では、各々の犯行を引き起こした心理的な背景が生々しく、「自分もそこに行きかねない」ような気持ちの悪さがあるからだと思う。後半でどんでん返し もあるが、心が騒つくような、気持ちの悪い方向に転ぶ。心に刻み付けるような話を連続で叩き込んでくるのはすごいと感じる。

 

 

思考の整理学

【作者】

 外山滋比古

 

【あらすじ・概要】

 創造的で自主的な思考はどのように育てることができるのか考察した本。

 知識を得て答えを出して行く学校教育は、風に乗って飛ぶ「グライダー」を養成しているが、自分のエンジンで飛ぶ「飛行機」型の思考が必要だ、という提言。

 記憶したこと、考えていることを一度寝かせ発酵させる工程が、独自の発想を生み出す。それゆえ、一晩眠り朝に考えることは意味がある。編集することも創造的な行為であり、既知の考え方を独自の視点で組み合わせることにも大きな価値がある。例えば俳句などでは、自分の思いを前面に出すよりもイメージを惹起する単語をどのように並べ編集するかに個性が出る。俳句の作者は触媒のようなものであると述べている。

 この本は1983年と30年以上前に書かれたものであるが、その時すでに「記憶」優先の教育は、記憶再生の能力では人間を凌ぐコンピュータに取って代わられる、コンピュータにできない創造的な活動に人間の価値が見出されるようになると予言している。

 覚えることは大事だが、それ以上に「上手に忘れる」ことが大事だという考え方を提示している。うまく忘れるためには、大事なことを峻別する方法や、体を動かすなど一つの思考に拘泥しないやり方も説明している。

 また、ものを読むときに動的な流れが必要で、ゆっくり読んで流れに乗れないと帰って理解しにくいこと、考えるをまとめるためには、とにかく書いてみることも友好など、多くの具体的なアドバイスがあった。

 

【感想・考察】

 よりよく考えるためには身軽でなければいけない、積極的に「忘れる」ことが重要だという考え方には衝撃を受け、共感を覚えた。知識は多いほうがいいが、知識の蓄積だけでは意味がない。そこからどのような独創的価値を見いだせるかが大事で、そのためには知識の整理が大事だと思う。

 情報の整理方法として、新聞・雑誌のスクラップや、メモの整理方法について説明していたが、そこにはさすがに古さを感じた。Evernote に放り込む方が圧倒的に便利で、検索性も高い。ただ、一度自分の手で情報を編集してから保管する手間をかけることで、アイディアの発酵に役立つこともあるとも思う。少なくとも読んだ本や感銘を受けた部分は手をかけて記録するようにしたい。

 「考えること」について考えさせられる本。

 

 

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