『いまさら翼といわれても』 米澤穂信
「ふたりの距離の概算」に続く古典部シリーズ第6弾です。
奉太郎と える が少しずつ成長しています。
タイトル
いまさら翼といわれても
「古典部」シリーズ
作者
米澤穂信
あらすじ・概要
高校2年になった古典部メンバーたちの話。6つの短編集。
- 箱の中の欠落
奉太郎は里志から、生徒会選挙で起きた不思議な事件の話を聞く。
投票の数が全校生徒の数を上回っていたという。選挙の立会人が来る前に投票箱を開けてしまった1年生を責める選管委員長に憤りを覚えた里志。奉太郎は表が紛れ込んだ過程を推理する。
- 鏡には映らない
摩耶花は中学時代の友人が奉太郎の悪口を言うのを聞いた。
中学の卒業制作として鏡のフレームを作ったが、奉太郎は自分の担当部分で明らかな手抜きをし、全体のデザインを壊してしまった。
奉太郎は「細かいことは忘れた」というが、摩耶花は必ず何かの事情があったはずだと考えた。
- 連峰は晴れているか
「ヘリコプターが好きだ」と言っていた中学時代の先生のことが話題に上がった。
その発言に違和感を覚えた奉太郎は当時の出来事を調べ、先生の真意を探る。
- わたしたちの伝説の一冊
摩耶花の属する漫画研究会は、作品を読んで楽しみたいという勢力と、自分で漫画を描きたいという勢力に別れ分裂していた。
摩耶花自身は、雑誌への投稿を繰り返すなど「漫画を描きたい」という気持ちが強かったが、部活内部での対立に心を痛めていた。
摩耶花は「漫画を描きたい派」の同級生から一緒に同人誌を作ることを勧められ同意したが、勝手な行動を「読みたいだけ派」に咎められる。同人誌が完成すれば「描きたい派」、できなければ「読みたい派」が研究会残るということになってしまう。
そんな中、摩耶花がネームを描いていたノートを盗まれてしまう。誰が何の目的で彼女のノートを盗んだのか。
- 長い休日
「やらなくていいことなら、やらない。やらなければならないことなら手短に」をモットーとする奉太郎。
奉太郎はえると神社の掃除をしながら、そう考えるに至った小学生の頃の出来事を打ち明ける。
- いまさら翼といわれても
合唱祭でソロパートを受け持っていた える が、本番直前になっても会場に現れない。摩耶花から連絡を受けた奉太郎は える を探しにいく。
奉太郎は 地方の名家の跡取りとして育てられてきた える の苦悩を知る。
感想・考察
奉太郎は小学生の頃の出来事から「付け込まれて利用されるのはイヤだ」と感じ、省エネな生き方を志すようになっていた。でもその根底には「人を助けたい」という思いが残っているのがみえる。
古典部の仲間たちや、特に える の影響で奉太郎の心が少しずつ溶けている様子が見て取れる。「長い休日」は終わろうとしているのだろう。
一方、える の人生も重たい。高校生ながら様々な責任を抱えて生きてきた。自由のない、翼を持てない生き方は重苦しい。あるいは、いまさら翼といわれても困惑してしまうのだろう。
日常系ミステリとしての謎解きも面白いが、古典部メンバーの成長を描くジュブナイルとして素晴らしい作品だと思う。
「サザエさん」とか「コナン」くらい、作中の時間と現実時間の差が広がってきているけれど、ちゃんと学年が上がり成長しているので、先の展開を期待したい。