毎日一冊! Kennie の読書日記

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『マチネの終わりに』 平野啓一郎

主人公の蒔野は「変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど実際は、未来委は常に過去を変えている」と言います。

洋子の子供時代の話から、主題提示し、様々に展開して可能性を見せた後に、最後に改めて主題を提示する「フーガ形式」になぞらえて出てきたものですが、本作全体でも、このような展開を見せています。

出会いの日の思い出はその時々の状況で意味合いを変えてゆくけれど、最後に再び出会い直すとき、改めてその意味が浮かび上がってきます。

美しいストーリーです。

 

タイトル

マチネの終わりに

 

作者

平野啓一郎

 

あらすじ・概要

クラシックギタリストである蒔野聰史はコンサートの後に小峰洋子と出会う。洋子はかつて高校生の頃の蒔野の演奏を聞き感動し嫉妬したと言い、また彼女は蒔野が敬服する映画監督の娘でもあった。

 

その後、洋子は記者としてイラクに赴任するが、爆破テロに巻き込まれかける。洋子のみを案じた蒔野は何度もメールを送るが音沙汰がなかった。洋子は、テロからしばらく経ちパリに戻ってから蒔野に返信を送る。蒔野のパリ公演時に再開することを約束した。

 

蒔野はパリで再開した日、洋子への思いを告げ、彼女のフィアンセと別れ結婚して欲しいと伝え、洋子は次に会う日まで返事を保留した。

次の約束の日、洋子がコンサートに来なかったことに蒔野は落胆したが、洋子のイラク時代の同僚が亡命し移民局に身柄を引き受けに行ったからだった。蒔野は洋子と彼女の同僚にギターの演奏を贈り、洋子は蒔野に結婚の承諾を伝えた。

 

洋子はテロに会ったPTSDに悩まされながらも、日本に向かい蒔野と会うことを約束する。

ところが洋子が日本に到着する日、蒔野の師匠が倒れて入院してしまう。急いで病院に駆け付けた蒔野は携帯をタクシーに忘れてしまった。蒔野はマネージャーの三谷早苗に携帯を受け取りに行ってもらったが、蒔野に想いを寄せる早苗は、洋子と蒔野の再会を妨害するメールを蒔野の携帯から送ってしまう。

その後すれ違いが続き、洋子は蒔野に会うことなくパリに帰ってしまい「婚約者リチャードとよりを戻して結婚する」とだけ伝え二人は離れてしまった。

 

リチャードは洋子との結婚を喜び子供にも恵まれたが、彼女から金融工学の学者としてサブプライムローンなどの取引に関与していたことの倫理的責任を問われ、洋子の冷たさにも疲れて浮気ししてしまう。結局二人は離婚し、子供を分担して育てることとなった。

 

蒔野の方は洋子と別れて失意に沈み、その後も病気のためギターに触れることができない日が続いていた。そんな中献身的に蒔野を支えようとする早苗と結婚することになる。長らくギターから離れていた蒔野だったが、友人と武知と一緒に演奏を再開した。

 

洋子は日本の母親を訪ねて一時帰国し、その時開催されていた蒔野のツアーに参加しようとした。だが既に蒔野の子を身ごもっていた早苗に見つかり、客席に来ないで欲しいと言われる。その時の会話で、蒔野との別れは早苗が偽装したメールが原因であったことに気づいてしまうが、洋子はそのまま身を引いた。

 

武知とのツアーでスランプを脱した蒔野だったが、ツアー終了後ギターを辞めて家業を継ぐといっていた武知が自殺してしまったことを知る。その話を聞いた早苗は自分の罪深さを恐れ、洋子に偽メールを送り二人を別れさせようとしたことを告白した。

 

その後、ニューヨークでのリサイタルの客席で、蒔野は洋子の姿を見つけた。

 

 

感想・考察

とてもよく練られた美しい話だと思うが、洋子も蒔野もちょっと高潔過ぎる感じで読んでいて息苦しくなる。

そんな中、三谷早苗の存在が救いになっていると感じた。地べたを這っても泥水を飲んでも自分が主役になれなくても、自分に忠実に生きる早苗は、洋子よりも蒔野よりも魅力的に見える。

 

洋子の父ソリッチ監督は「自由意思というのは、未来に対しては、何かができるはずという希望だが、過去に対しては何かができたはずだったという悔恨になり得る」と語ったが、「過去は変えられなくても、未来の出来事は過去の意味合いを変えていく」のだろう。

 

マチネの終わりに洋子と蒔野は再び出会い、その関係がどうなるのかは分からないが、早苗は、未来への自由意思で過去を切り開いていくのだと思える。 

 

 

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