『閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎』 木元哉多
「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズ5作目です。
第3話は「正統派推理としては反則では!?」と思ったけれど
よく読むとちゃんと本文内に伏線がありました。
定型的な様式美の中でこそ光る変化球にやられました。
タイトル
閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎
作者
木元哉多
あらすじ・概要
死者が自分自身で見た内容だけで考える推理ゲームで
生き返りをかける。3つの短編小説集。
- 第1話 澤木夏帆 23歳 元バドミントン選手 死因 轢死
澤木夏帆はバドミントンの才能に恵まれ
オリンピックへの出場経験もあったがケガで引退し
バドミントン教室のコーチとしてゆるく働いていた。
日本のバドミントンを盛り上げてきた夏帆の父が亡くなる。
葬儀に集まった 姉の南緒、日本代表監督の稲葉、
急成長している選手の志田たちは
かつて夏帆が「才能に頼って努力をしなかった」ことを責め
現役復帰はしないよう念を押した。
だが父が死の直前に書いた「つづけろ」というメッセージに
夏帆は心動かされる。
怪我が回復したことを実感した夏帆は
練習熱心な小学生の静香を相手にトレーニングを開始した。
ところがある日、いつも通り体育館に来ない静香を心配し
夏帆は自転車で彼女に自宅に向かおうとしたが
何者かにブレーキが壊され、坂の下で車に轢かれ死んでしまう。
夏帆は生き返りを賭け、推理ゲームに挑戦する。
- 第2話 相楽大地 17歳 高校生 死因 圧死
イケメン高校生の相楽大地は、いじめられていた同級生の
神里亜弥に恋してしまう。
亜弥はクラス女子の中心的存在だった佐々岡鳴海と
中が良かったが、いつからか仲違いし
その後クラスでいじめられるようになった。
大地は「なぜ亜弥と仲たがいしたか」を鳴海に聞くが
鳴海は答えず、その日で学校をやめるという。
心配になった大地と亜弥たちは鳴海の家に赴くが
家を飛び出した鳴海を見つけ後追いかけた。
鳴海はしばらく前に辞めた教師の家で何かを話し
その後どこかに行ってしまう。
亜弥は大地に「学校に向かって」と言い、
敷地に入ると校舎の上に駆け上がった。
屋上から落ちてくる亜弥を受け止めようとした大地は
そこで息絶えてしまう。
亜弥の生死が気になる大地は
生き返りをかけて推理ゲームに臨む。
- 第3話 土橋昇 39歳 子会社社長 死因 渇え死に
土橋昇は高校生の頃、友人勇介の父和正が持つクルーザに乗ったが
事故で転覆してしまう。
和正は死んでしまったが、土橋と勇介とその2歳の弟 秋輔が
救命ボートに乗り海上をさまよっていた。
岩場に辿り着き勇介は状況を見るためボートを降りたが
土橋は隠し持った水を飲むため勇介を置き去りにしてしまう。
その直後に救出された土橋は、秋輔を救ったということで
勇介の家族から感謝され、後日そのグループ企業子会社の
社長職を与えられていた。
土橋は長期休暇を別荘で過ごしたが
地下に設けたオーディオルームに監禁され
脱水して死んでしまう。
誰が自分を監禁したのか、土橋は推理ゲームに挑む。
感想・考察
3話目は本格推理から外れるのかもしれないが
作者はちゃんと本文中で条件を述べている。
「その時点で彼の頭にある情報だけ」で謎が解けるのは嘘ではない。
マンネリになるほど定型フォーマットにこだわった分、
そこに仕組まれた伏線が見えにくくなるというのは面白い。
次回作にも期待したい。