毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

春にして君を離れ

アガサ・クリスティの作品ですが

ミステリーではありません。

事件も起こらず探偵も登場せず

一人の女性が自分の内面を掘り下げていく

サイコ・スリラー的な話で、

生々しい恐ろしさがありました。

 

【タイトル】

春にして君を離れ

 

【作者】

アガサ・クリスティ

 

【あらすじ・概要】

 ロンドンに住む ジョーン は

嫁いだ末娘のバーバラが体調を崩したため、

駆けつけて様子を見てきた。

 

その帰り道、列車の事故で 

砂漠の宿泊所で数日間足止めされる。

話す相手もなく、ひたすら自分自身について

考えを深めていくごとに

家族や友人たちのため、

自分を顧みず献身的に尽くしてきたという思いと

夫のロドニー、息子と娘たちが自分に向ける態度の

温度差を感じ始める。

意識的に蓋をしていたできごとが

穴から這い出るように自分を追い詰めていく。

 

【感想・考察】

主人公ジョーンの描写が恐ろしい。

 

まず、疑いを持たない「善意」が恐ろしい。

「相手のためだ」というところで思考が止まり

本当に相手のためになっているのか、

根本的には自分の欲望があるのではないか、

と考えることなく、相手の自由を奪っていく。

自覚的な「悪」よりもはるかにタチが悪い。

 

そして、ジョーンの場合は、

自分の善意の醜悪さに気づいた後も

敢えて目をそらし、また蓋をしてしまう。

「疑いを持たない善意」は恐ろしいが

「疑いを捨てた善意」はさらに不気味だ。

 

一方で、ジョーンの夫ロドニーも冷酷な人間だ。

ジョーンの醜悪な「善意」に晒され、疲れきってはいるが

唯一ジョーンを救える立場にありながら

冷淡に突き放して見ている。

ロドニーがジョーンの歪んだ「善意」に

真正面からぶつからず、いなしてきたことは罪深い。

 

殺人事件も叙述トリックもないが

驚きと恐ろしさを感じる話だった。

 

 

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