MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣
「決算の発表資料から、指標を読み解き、実績や将来性を評価する方法」を説く本です。著者の得意なEC関連企業を中心に、成長の理由や将来どこを狙っているかなど分析しています。
タイトルから会計の解説書だと思ったのですが、企業の経営方針などの「見方」を提示する本で、なかなか面白かったです。
【作者】
シバタナオキ
【あらすじ・概要】
決算書類から「知識」を得る方法を解説。
決算を読むための10か条
①他人の家計簿を覗くつもりで
②必要なのは四則演算のみ
③決算短信より決算説明会資料
④将来予測の前に過去の正確な理解
⑤各ビジネスの構造を数式で理解する
⑥各ビジネスの主要数字は暗記しておく
⑦因数分解でユニットエコノミクスを計算する
⑧成長性を確認する
⑨類似企業の決算と比較する
⑩類似企業の違いが説明できるようになる
ECビジネスの決算
・ECビジネスの収益は 取扱高×テイクレート
・アマゾンのように自社で販売する「直販型」と、楽天のように場所貸しをする「マーケットプレイス型」の2種類がある。
・直販型は 販売額-仕入額 とシンプル。
WEBによる強者全取りの世界では規模の経済が効く。
・マーケットプレイス型は、出店料、手数料、広告掲載料 が収益となる。
「場の魅力」をどう作れるかがポイントになる。
・マーケットプレイス型のテイクレートは
米国10%程度、日本5%程度、中国3%となっている。
・アマゾンはほぼ利益を出さず、物流などの再投資に回している。
FinTechビジネスの決算
・FinTechビジネスの収益は (貸付残高×金利) +(取扱額×手数料率)
・クレジットカードのテイクレートは3%前後。
キャッシングやリボ払いといった短期貸付の利益率が高い。
・PayPalの個人間送金サービスも3%程度のテイクレート。
・トランザクション機能より金貸しの方が儲かるが、リスクも大きい。
広告ビジネスの決算
・広告ビジネスの収益構造は ユーザー数×ARPU(一人当たり収益)
・広告ビジネスという意味ではテレビもSNSも同じ市場。
・ユーザー数ではテレビが圧倒的だが、広告対象をターゲティングできない。
・Facebookなどはユーザ頭打ちの状況で、ARPU向上を目指す。
個人課金ビジネスの決算
・個人課金ビジネスの収益構造は ユーザー数×ARPU(一人当たり収益)
・課金への障壁は高いので、広告をベースとした無料サービスから課金サービスへの意向を図る フリーミア(フリー&プレミアム)形式が多い。
全体では 広告売上+課金売上となる。
携帯キャリアの決算
・携帯キャリアの収益構造も ユーザー数×ARPU(一人当たり収益)
ARPUは、音声・データ・サービスに分けられる。
・携帯キャリアは規制産業で30%程度の営業利益率となっている。
サブスクリプションの解約率は極めて低い。
・MVNOのビジネスは原価が高く、利幅は小さい。
企業買収とM&A
・買収額が時価総額より高い場合、差額をのれん代として償却する必要がある。
IFRSでは償却の必要はないが、適時評価し差額を減損しなければいけない。
IFRS対応で成長性のある企業の買収のしやすさが変わる。
【感想・考察】
特に興味深かったのは、民放で実視聴者一人当たり 1000円程度の広告収入があるという点。NHKと大差ないことに驚いた。
NHKの場合は「見ていないのに強制的に徴収される」ことに嫌悪感を持つ人も多いが、民放の場合は「無料」という意識がある。
実際には、製品価格に上乗せして間接的に広告費を払っている。「見ていなくても自動的に徴収されている」という構造は同じでも、不透明なので意識されない。 「広告されている商品の不買」という選択肢も現実的ではない。
「広告」という間接的な課金方法でコンテンツを得ることに慣れた消費者が、直接的な課金に戻るのは難しいことかもしれないが、その方が公平性・健全性は高いのだろう。CMよりはソシャゲのガチャの方がある意味公平だ。