毎日一冊! Kennie の読書日記

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ゲーム理論の思考法

 ゲーム理論の基本がとても分かりやすく説明されています。複雑な数式などもなく、シンプルでわかりやすい。入門書として最適だと思います。

 

【作者】

 川西諭

 

【あらすじ・概要】

 「2つ以上の主体の意思決定・行動を分析する理論」であるゲーム理論について、ごく初歩的な内容から説明する本。

 

・ゲーム理論の目的

 ①ゲームの構造を把握する

 ②起こりうる未来を予測する

 ③適切な解決策を見つける

 

・囚人のジレンマ

 ゲーム理論の基本的な構造。利害関係のある二者の動きを予測し、最適な解決を考える。最終的に落ち着く最適解のポイントが「ナッシュ均衡」となる。それぞれの囚人視点からみた最適解が全体での最適解になっていないのが「ジレンマ」と呼ばれる所以。

 

・コーディネーション ゲーム

 VHSとベータのシェア争いのように「周囲と同じである」ことのメリットが大きく、それ自体にはほとんど差異がなくても初期条件によって圧倒的な差がつくようなゲーム。仮にベータの方がスペックで優位であったとしても状況をひっくり返すことはできず、初期条件によっては最適ではない結果となることもある。

 

・その他の利害関係

 「チキンゲーム」のように相手に虚勢を読まれてはいけないゲーム、じゃんけんのようにナッシュ均衡が存在しない「マッチング・ペーニーズ・ゲーム」、有利なポイントが集中してしまうという「ホテリング・ゲーム」などで多様な利害関係のパターンを解説。

 

・ダイナミックなゲーム

 「囚人のジレンマ」でも1回だけであれば、個人視点での最適解がナッシュ均衡ポイントとなるが、複数回繰り返され相手の動きに対応するようになると「裏切らないほうが得」という解に近づいていく。

 展開型ゲームでは「ゲームの木」で時間の流れを見、「バックワード・インダクション」(結論からの帰納)で、初手からの最適行動を考えていくことを説明。

 

・不合理な動き

 ゲーム理論は「それぞれの主体が合理的な行動を取る」ことを前提に組み立てられているが、実際の人間の行動は合理的ではない。

 例えばAが1000円の分配を決め、Bがその分配の受諾可否を決めるゲームの場合、バックワード・インダクションで考えれば「A999円、B1円」がナッシュ均衡になるが、実験ではAの立場では半々に近い比率で分割する多く、Bの立場では半分より極端に少ない比率では拒否するケースも多かった。完全に不合理な行動といえるが、それが一般的な傾向だった。

 実際の社会では「人はそれほど先を読んで行動しているわけではない」ことを前提に考えなければいけないし、「理論よりも社会的規範や倫理観、感情」が行動を決定することが多いといえる。

 

【感想・考察】

 入門書ではあるが3つの示唆を受けた。

 

 一つは「個別最適が全体最適に結びつかないゲーム」となっている場合、ナッシュ均衡点をずらすような「ゲームのルール変更」が必要であるという話。

 「神の見えざる手」により最適な解に落ち着くという自由経済の理論だけでは「神の手」が届かない場所があり、結果的に「労働者の保護」や「税などによる所得再分配」といった長期的・全体的に見た最適解に向けての「ルール変更」が行われたということなのだろう。

 

 二つ目は「時間の経過を考えに入れたダイナミックなゲームでは、関係性が重要になる」ということ。

 例えば中国経済を見ると数十年前の資本主義導入から浅い時期には、各プレイヤーが個別最適の視点で、コストカットのために品質を犠牲にしたり、商標などをパクるケースも散見されたが、ここ十数年で「繰り返し」が進むと、短期的な利害よりも長期的な信用が大きな意味をことが周知され、まじめに技術開発に投資する会社や、高品質な製品を販売する会社が優位になってきている。

 社会の変動期や新技術の広がりなどがあった場合には新しいルールでのゲームが行われる。繰り返し回数が少ないうちは「個別最適」が均衡点となるが、社会が安定し繰り返し回数が増えると「全体最適」を見る視点が生まれてくる。

 社会の革新は人に利便性をもたらすが、急速過ぎる変化は社会全体を見る視点を失わせる要因にもなるのだろう。

 

 三つ目は「人はそれほど合理的ではない」ということ。

 それほど先を読んで行動しているわけではない、というのはその通りだと思う。一方で「社会的規範や倫理観」というのは、ある意味では「繰り返し」ゲームのなかで見出されてきた長期的な均衡点を示すものなのだと思う。「古い規範に縛られることなく、現実を論理に判断して行動しよう」という考え方は正しいが、「現実を論理的」に見るとき、ダイナミックな時間経過も含め長期的な広い視点で判断できているのか、謙虚に考える必要があるのだろう。

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

 

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