プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法
現役の弁護士が「交渉のための心理術」を説いた本です。
短めの本ですが、論理だっていて理解しやすく実用的な内容が詰まっていて、かなりの良書だと思います。
【作者】
石井琢磨
【あらすじ・概要】
交渉を有利に運ぶ秘策は「連帯関係に持ち込むこと」。
その流れは ① 感情に対処する→② 論理的に説得する →③ 感情に対処する
① 感情に対処する
・権威を利用する
弁護士であれば敢えて分厚い六法全書を持ち歩くなど。
・相手の勘定の背後にある欲求を探る
怒っている根本原因は、例えば「自分も決定プロセスに関わりたい」ということかもしれない。
・相手の本体を探る
決定権者を探る。
・好かれ方を学ぶ
外見の魅力、類似性、賞賛、接触回数、誠実な関心、笑顔、名前を覚える、聞き手に回る、関心のありかを見抜く等。「影響力の武器(ロバート・B・チャルディーに)」、「人を動かす(D・カーネギー)」の2冊を参考として推奨。
・メリットを意識して話を聞く
人の話を聞くのが好きでなくても、「聞くことにメリットがある」と考え、打算的にでも聞く。
・好かれた証拠を作る
当初の目標や、関係が良くなった時点のことを記録に残しておく。
・職業としての敵意に反応しない
相手が職業的な必要性から怒っている場合、相手の感情に乗らない。
・相手のメリットを探す
相手が怒っている理由が「事情が分からない」であれば、情報提供するなど。
・提案をずらす
例えば「長期の懲役」の要求の背景が「二度と顔を合わせたくない」であれば、「引越しをする」など別の提案にずらすことも考える。
・共通の敵を作る
人だけでなく「ルール」や「先例」等、障害に一緒に立ち向かう姿勢を示す。
・水面下で何かを与える
本来の取引以外で相手に何かを与えると「好意の返報性」により有利に進む。物理的なものだけでなく「相手の意見が役に立った」という賞賛など。
・抽象化して合意を得る
抽象度を上げて具体的な話の前に合意に持ち込む。
・共同作業に見せかける
一緒に何かを作ることで「共同作業感を演出する」
② 論理的に説得する
・アンカリング
特に根拠はなくても、最初に提示する数字が判断の基準になりやすい。
・リフレーミング
「成功率90%の手術」は受けても「失敗率10%」の手術は嫌がられる。フレームの取り方で受け取られ方が変わる。軸をずらし誘導する。
・質問で誘導
目的に合った言葉選び。合意が目的であれば「刑事告訴」より「話し合い」という単語を選ぶ。
質問の前提を操作。買う気がない人に「ルビーとダイヤどっちが欲しい」と聞くなど。
一貫性。自分が答えたことに一貫性を持たそうとする。
・サンクコストの利用
そこまでに使った労力・費用をもったいないと感じさせる。
・タイムリミットの利用
タイムリミットによる希少性の演出。
自分から妥協案を出す場合の理由付け。自分の側にタイムリミットがあることは、一般的には不利だが「起訴の期限となる日付までに示談に応じてくれたら200万、それ以降だと無意味なので2万」などの交渉に納得性を持たすことに使える。
・相手の裏切りを想定
どんな相手も裏切る可能性があることを想定し「説明内容」と「説明状況」には問題がないようにしておく。
・交渉を気軽に捉える
交渉事は相手に負担をかけるわけではなく、相手のメリットになることもある。必要以上に交渉を回避しようとしない。
・ロジックの必要性を考える
感情で「イエス」になっているなら論理は必要ない。
・論理の前提を疑う
前提となる事実を分解し、個別にチェックする。
・論理の繋がりを疑う
その論理で目的に至ることができるのか、個別に分解しチェックする。
・ポイントを絞って反論する
目的の範囲で反論する。相手を論破することは目的でない。
・論破した後に逃げ道を与える
論破したことに気づいていないくらいの感じで、誘導する。
・契約書作成までが高尚だが、契約書もただの紙切れ
③ 感情に対処する
・負の感情に支配されない
自分の心を守ることを最優先に考える。
・心理戦の憂鬱度をコントロール
正義の相対化。この相手の正義には60%は合意できるなど。一つの正義に固執しない。
自分の客観視。
相手の立場に立って交渉しても、相手の感情に共感する必要はない。
・負けたふりをする
別れ際には相手のメリットを強調し、じぶんがちょっと負けたふりをする。
・試練の捉え方
未来の時間軸で考える。
【感想・考察】
短い本だが、内容が凝縮されていて実用的。精神論で終わらず実践的。何度か繰り返して読みたい本。
【オススメ度】
★★★★☆