毎日一冊! Kennie の読書日記

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脳は、なぜあなたをだますのか ──知覚心理学入門

  「知覚心理学」を研究している著者が、その面白さを伝えている本です。自分が見て感じていることも、目や耳や脳の機能から見ると違ったものに見えてきて面白いですね。

 

【作者】

 妹尾武治

 

【あらすじ・概要】

  知覚心理学とは「刺激と行動の対応関係から、脳内のアルゴリズムを推測する」心理学。

 

 著者の専門である「ベクション現象」について詳しく語る。

 ベクションとは「止まっているときに隣の車が動き出したのを見て、自分が動いたと勘違いするような現象」をいう。

 視覚や加速減速感覚などが自己移動の感覚を引き起こす。ベクションを調べることで感覚の重み付けや、酔った時などの影響を調べることができる。また上昇感覚のベクションを与えると肯定的になるなど、感覚から判断へのフィードバックも認められる。

 

 次に「クオリア」につい語る。

 クオリアとは「自分が主観的に感じている赤の赤さ」など自分固有の感覚を言う。「赤」に関する自分の感覚をどれだけ列挙しても、他の人に伝えることはできない。

 知覚心理学の一つの命題はクオリアを言語レベルに還元しようとすることだが極めて難しい。

 

 つづいて「自由意思」についての著者の持論を説く。

 感覚刺激が意識に上るまでは0.5秒のラグがあること、体を動かそうと意識しする0.2秒前には身体を動かすための電気信号が脳から発せられていることが実験で確認されている。

 人間は「自由意思」で自分の行動を決めていると感じているが、実は外的刺激に対する自動的な反応を、後付けで自分の意志だと感じているだけだという。これは「主体となる意志」というフィクションの存在が「エピソード記憶」を持つのに有利だったからだと著者は考えている。

 

 また、「行動経済学」の基礎を確立しノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンが明らかにした「人間行動の非合理性」について語る。

 100%の確率で7000円もらえるのと、90%の確率で10000円もらえるなら、期待値でいえば後者の方が有利だが、前者を選ぶ人が多い。

 100%の確率で7000円奪われるのと、90%の確率で10000奪われるなら、期待値計算では後者の方がリスキーだが、後者を選ぶ人が多い。

 人間の判断では、メリットよりもリスクを恐れる、失うときは金額の差が心理的価値の低下に強く影響するが、得るときは金額の差の影響がそれより少ない。

 こういう心の機微としては認知されていたことを経済学に持ち込んだ成果を評価され、カーネマンはノーベル経済学賞を受賞した。

 また、モンティーホール問題については、人間よりも鳩の方が正しい認識をしたとして、人間の意識が現実を素直に見ることを邪魔している例も挙げる。

 (モンティーホール問題:3つのドアのうち、1つが正解。回答者が一つのドアを選んだあと、司会者が選ばれなかったドアのうちハズレの方を開く。ハズレが開かれ2択となったときに、ドアの選択を変えるかそのままにするかという問題。数学的には変えた方が2倍の確立となるが、感覚的には変わらないと思われがち)

 

 騙されないための「心のからくり」についても語る。

 「注意資源」は有限であり、詐欺師などは複数の課題を同時に与え、判断力を低下させているという。

 注意資源の総量を増やすことは難しいが、努力によって個々の作業に必要とする注意資源を減らすことはできるとする。

 また判断に影響を与える要素として、空腹時は否定的な判断をしやすい、うなずく動作をしているときは肯定的な判断をしやすい、設問などに組み込まれた数字がアンカリングとなって基準になりやすい、などを挙げる。

 

【感想・考察】

 ベクションやクオリアの研究が進めば、どういう刺激からどういう感覚フィードバックが得られ、どういう感覚に現実感を覚えるのかということが明らかになる。そうすると「仮想現実」のリアリティーが上がり、ゲームや映画と言ったエンターテインメント以外の世界にも広がっていくことは間違いないと思う。

 自分の感覚でいうと、映画よりは小説の方が自分のクオリアを呼び覚ます。文字だけの方が感覚刺激は少ないはずなのに、心の奥に踏み込んでくるのは何故なのか、考えてみると面白い。

 

 また「自由意思」について、刺激に対する反応という「0.5秒の世界」では著者の言う通りなのだと思う。実際には考える前に体が動いているのだろう。

 ただ、論理的な思考の積み重ねだったり「将来は○○をしたい」というような遠大な「思い」が、長期的な行動に影響を及ぼしていないとは思えない。全て含めて「自由意思はフィクション」とするのは少々乱暴だとも思う。

 

 心理学のように、実験をベースとした科学では「実験方法のオリジナリティー」に研究者の能力が出るという指摘も、門外漢には新鮮だった。うなずき動作を強制するために、「ヘッドフォンの振動に対する音質の影響」といった設定を用いる発想だとか、「金持ち」の近似値として「いい車」を持ち出す大雑把さとか、なかなか楽しそうだ。

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

 

 

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