お金2.0 新しい経済のルールと生き方
【作者】
佐藤航陽
【あらすじ・概要】
技術の進歩が経済をどの様に変えていくかを著者独自の観点から説く。
・貨幣は国家が中央管理するものという考えが一般化しているが、それほど歴史の長いものではない。分散化して様々なレイヤーの経済が並立することもありえる。
・情報の非対称性からハブとなる存在に情報が集中し力が集中していた。金融であれば銀行や大口の投資家など、物流であれば商社など。ネットによる情報の分散化によりハブの存在価値が弱まっていくと考えられる。UBERや AirBnBなどのシェアエコノミーや、仮想通貨などのトークンエコノミーが分散化の流れを加速していく。
・経済の活力を支えるのは、「適切なインセンティブ、リアルタイム性、不確実性、ヒエラルキー、コミュニケーション」の5項目が大事だとする。資本主義はこれらを兼ね備えた優れた仕組みだが、富の偏在が進み「錆びついて」いる。ヒエラルキーの固定、不確実性の減少、インセンティブの減少から活力を落としつつある。対抗するイデオロギーであった「社会主義」はこれらの要件を全く満たしていないため、活力を維持できなかった。
・会社の財務状況を評価する指標は産業革命以降の「ものづくり」をベースにしたものとなっているが、情報や影響力などの価値は表現しきれていない。従来の価値基準では Facebook が Instagram を数百億円で購入することは理解できなかった。
・古くは王や高位の聖職者など特権階級に独占されていた「知識」は活版印刷の普及により大衆化し、Google によって完全にコモディティー化された。AIの普及で生産のための労働の必要性が減り、ベーシックインカムなどが支給されることになれば「お金」についてもコモディティー化が進む可能性がある。
・資本が力を持つ「資本主義」から、価値が重視される「価値主義」に移行していく。
・価値には、資本主義で重視された「有用性の価値」、資本主義では直接評価できなかった、共感や熱狂などの「内面的価値」、資本主義ではコストとしてしか認識されなかった「社会的価値」の3種類がある。
・この3つの価値を高めることが資本よりも重要となるのが「価値主義」。それぞれの「価値」に対し、分散的な「通貨」で対価が支払われる世界。
・「価値」が重視され、自律分散した経済が回り始めることで、政治や宗教と経済との境界も融合していく。
【感想・考察】
斬新な観念を、容易で分かりやすい文章で説明している。中央集権的な貨幣制度や資本主義的な交換価値重視の価値観は強固で、数世代のうちに移行が進むのか分からないが、各自の持つ「価値」が重要になる未来は楽しそうだ、
「人間は生まれた時からあるものは自然なものとして受け入れ、15歳から35歳くらいまでに触れたものはエキサイティングな新技術だと感じ、それ以降に初めて触れたものは自然に反する不快なものと感じる」という引用があった。その通りと思うが、自分自身は柔軟性を失いたくない。少しでも多く学び、自分の「常識」の枠を広げ、新しい変化を受け入れられる人物でありたい。
色々な読み方ができるが、とにかく一読すべき。勧めたい本。