毎日一冊! Kennie の読書日記

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ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity?

【作者】

 森博嗣

 

【あらすじ・概要】

 ハギリ博士が人工生命、人工知能と人間との境界を探り超えていく Wシリーズの第7弾。前作「青く輝く月を見たか?」の最後で それまでハギリのボディーガードを勤めたウグイが昇進により任を解かれたので、今作では後任のキガタと共に冒険する。

 この時代の人間は、医療技術の進歩によりほぼ不老不死となった代わりに、生殖能力を失っていた。新しい人類が生まれなくなった分、人間とほぼ同等の肉体を持ち、電子的な頭脳回路を持つウォーカロンと共存をしていた。スーパコンピュータの演算による仮想的な人格や、ネットワーク上に分散して存在するトランスファと言われる人工知能も人間と共存していく。

 

 今作の舞台はインド。資産家のケルネィの元に「子供を産める」ウォーカロンがかくまわれているのではないか、との情報を得た日本政府はハギリを調査に送る。

 ハギリはスーパーコンピューターのペガサスから「子供が産める」ウォーカロンは、実は体内にクローン人間の種を仕込んだだけのマジックの可能性があると告げられていた。ハギリはケルネィにウォーカロンの間に生まれた子供がクローンだということもありうると伝える。

 ケルネィが所用で屋敷を離れた時に、屋敷の地下に隠された部屋から出てきたウォーカロンが暴走し、ハギリとボディーガードのキガタを襲う。

 一度は日本に戻ったハギリだが、今までのボディガードであったウグイと同行し改めて、インドを訪れ事件の真相を探る。

 

【感想・考察】

 ミステリ要素は薄く、「誰がウォーカロンを暴走させた犯人なのか」の謎はあっさり解かれるが、SFとしては正解描写が精密さを極め、円熟したストーリーとなっている。

 「子供は泣くけれど、悲しいわけじゃない。笑うけれど楽しいわけでもない。子供は、反応、興味、注目、興奮 そういうものに動かされる。それらに対して周囲が感情的に接するから、子供は感情というサインを覚える」という分析はまさにその通りだと思う。人間の感情的反応は後天的に獲得されたものなのだろう。ハギリ博士の開発した「人間とウォーカロンを識別する装置」は低年齢ほど判定精度が落ちる、という設定がシリーズ当初からあったが、「言葉で表現される感情的な反応」は成長に伴い後天的に獲得されるからだとすると、極めて綿密に張られた伏線であることに驚く。

 未来をシミュレーションする物語として極めて興味深い。技術が臨界点を超える瞬間を見たいと思う。

 

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