1分間ピケティ 「21位世紀の資本論」を理解する77の理論
【作者】
西村 克己
【あらすじ・概要】
トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」を77のポイントに絞って説明した本。
・資本主義は民主主義ではない
ピケティは原則として資本主義に賛成の立場だが、資本主義は民主的な仕組みではなく、放置すると富は集中してしまうので、意図的な所得の再分配が不可欠だという立場で「21世紀の資本論」を著している。
・「トリクルダウン」は起こらない
資本主義の理論では、富裕層のお金が、徐々に中間層・下位層に巡る「トリクルダウン」という考え方があり、政府が介入するよりも自然に任せた方が健全だ、という流れがある。しかしながら、ピケティの分析では「トリクルダウン」による自然な富の再分配は観察されないとした。ここ数十年での格差の縮小は、戦争によって資本家への打撃があった時だけだとする。
・資本収益率が経済成長率を上回り続けている
資本収益率(Return on Capital)が経済成長率(Economic Growth)を上回り続けていることを「r>g」 と表現した。労働による経済成長率は、一時的な急成長はあっても1.5%程度に落ち着くが、資本収益率は ここ数十年の間 4~5%程度 で推移している。自分で働くよりも、お金を使って投資した方が儲かるので、資本を持つ者により資本が集中していく。更に大きな資本の方が大きな収益を上げられることも、資本の集中に拍車をかけている。
・技能が技術革新を上回れば、労働所得は増えていくが、オペレーション的な仕事は最低賃金近くまで落ち込んでいく。技能を高めるための高等教育が引き続き大事。ただ、企業の経営層などが実績に関わらず、不透明な状況で高給を得ているような状況では、技能の取得に対するモチベーションが落ちかねず、民主主義の根幹に関わるとしている。
・格差縮小のためには、「累進課税」と「資本に対する課税」が必要
累進課税の最高税率は下がる傾向にあるが、格差縮小のための手段としては最も効果的とする。また、収入に対する課税だけでなく、「保有する資本の規模」に応じた課税が必要だとするが、タックスヘイブンなど抜け穴があっては効果がないので、全世界が協調して取り組む必要があるとしている。
【感想・考察】
資本収益率が経済成長率を上回り続けていることにより、資本の集中が進むと考えると地道に働くことがバカバカしくなってしまう。
最近の日本でも、所得の再分配よりは高所得者を優遇し、経済全体を活性化させることを目指しているが、中間層の下位層への落ち込みが進み、下位層の生活はさらに苦しくなっていく。とはいえ社会主義的なラジカルさで富の保有を否定してしまうと、経済成長自体が阻害されることも実際に起こっている。
「所得への課税」で累進課税の傾斜を大きくしすぎると、所得を増やすことへのモチベーションが下がるので、ピケティの言うように「資本への課税」を大胆に行っていくことで、所得の再分配が可能になるのだと思う。
政治・経済的に実行力を持っているのは、「資本を持つ」層であることを考えると、そこに踏み込むのは相当に難しいが、共産主義者が掲げたような「武力闘争による革命」は、その後の政治体制構築を考えても、弊害の方が大きいのは間違いない。
中間層・下位層が、主体的な行動をしていくこと、富裕層が持続的な社会の幸福維持の為に積極的に貢献していくことが必要で、そこへ導いていくことができるようなストーリーが必要なのだろう。