押絵と旅する男
【作者】
江戸川 乱歩
【あらすじ・概要】
電車で出会った奇妙な老人から、驚くほど精緻な押絵を見せられ、そこに描かれた老人と少女にまつわる話を聞かされる。
数十年前の話、押絵の男は老人の兄で、望遠鏡で見かけ見失ったた美しい少女に惹かれ、毎日にように少女を探し求めていた。ある日、男はついに少女を見つけるが、少女は見世物小屋に飾られた押絵だった。男は弟に、望遠鏡を逆から覗きこみ自分を小さく見てくれるよう頼み込んだ。男は押絵の少女と同じ大きさまで小さくなり、いつしか押絵の中に入り込んでいった。
周囲には理解されなかったが、押絵の中で少女と結ばれた男は実に幸せで、老人は押絵を持ち出し、旅行をさせたりしていた。
しかし月日が流れ、元々は人間であった男は押絵の中でも老いていき、最初から「絵」であった少女は若々しい美しさを保ったままで、男は時を経るにしたがい悲壮な表情を見せるようになった。
そこまで語った老人は夜の駅のホームに溶けて消えていった。
【感想・考察】
江戸川乱歩らしい怪奇譚で、自分の存在が不確実になるような不安感を煽る。文章表現は実に美しく、特に女性の描写は生き生きとして魅力的。子供の頃に読んだ時は気づかなかったような発見がある。