『吉原刀匠に聞く日本刀とっておきの話』 吉原 義人、鈴木 重好
武器であり美術品でもある日本刀についての本です。
著名な刀鍛冶との対談形式で刀の素晴らしさやその作り方を解説していきます。
タイトル
吉原刀匠に聞く日本刀とっておきの話
作者
吉原 義人、鈴木 重好
あらすじ・概要
- 日本刀の構造
日本刀の刃は固い部分と柔らかい部分でできている。
硬い方が鋭く切れ味が良いが、衝撃に弱く折れやすくなってしまう。
炭素含有量が1.0%〜1.2%と高く、硬くなりやすいものを皮鉄として表面に使い、炭素含有量が少なく硬くなりにくい部分を心鉄として内部に使う。
- 折り返し鍛錬
折り返し鑿を入れる鍛錬で1回あたり0.03%の炭素を失う。折り返しは13回前後で最高強度に達する。
- 土置き
焼き入れ前に刀身に年度を塗る。粘土の厚みにより冷却される時間に差が出る。急速冷凍の方が硬さが出るが粘りがなくなる。また粘土の厚みの違いは刀の模様(刀文)の形を決める。
- 焼き入れ
焼き入れ前の鋼の炭素含有量は皮鉄の部分で 0.7%程度。この炭素含有量であれば800℃程度でオーステナイト状態となり、これを急速冷凍するとマルテンサイトという固い組織になる。
刃先の部分は焼きが入りマルテンサイトとなり、刃の縁の部分はオーステナイトに変態しつつある状態で沸や匂が刀文として見える。
刀の背の方は皮鉄でもゆっくり冷却されマルテンサイトとなっていない部分、また心鉄として元々炭素含有量が低い部分なので、硬さはないが粘りがある。
また、マルテンサイト化することで刃先の組織が膨張することで、刀に反りが生まれる。
- 焼き戻し
焼きが入った部分と入らなかった部分で勤続組織としての歪みが生じ脆くなるので、180℃程度で温め常温で覚まし組織として安定させる。
- 彫刻
元々は刀の重量を軽減し、重量バランスをとるために行われていた。後期には芸術目的での彫刻もされるようになる。
感想・考察
現代では、刀に武器としての実用性はあまり求められず、どちらかというと工芸品美術品としての価値が主なのだと思う。それでもその価値は、美術品としての美しさ以上に実用品としての性能が重要視される。この辺は電波時計が安価に買える時代の高級機械式時計の価値と似ている気がする。
実用性がないところでもスペックに美学を見出しちゃうのは、合理的ではないけれど、理解できる。
普段読まないような本にも手が伸びるのが Kindle Unlimited の良いところだ。