あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
ものすごく真っ直ぐな「反戦のメッセージ」です。
定番の「タイムトラベル恋愛もの」で、
人物描写などもあっさりし過ぎているなあ、
とは思うけれど、
力強いメッセージを感じる話でした。
【タイトル】
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
【作者】
汐見夏衛
【あらすじ・概要】
反抗的な女子中学生 加納百合は、母親と喧嘩し家出をした。
かつての防空壕で眠った百合が目覚めると、
そこは 1945年の7月、終戦直前の夏だった。
行き倒れた百合を、通りかかった軍人の 彰が助け
ツルさんの食堂で暮らすこととなる。
やがて百合は、彰が特攻隊の隊員であり
近いうちに死んでしまう運命だと知る。
日本の敗戦を知り、特攻が無意味だったことを知る百合は
何とか彰を翻意させようとするが、
彰は自らの命で守るべき人を守るべきだと考えていた。
【感想・考察】
世界は「良くなっている」のだと思う。
先史時代の遺跡から発掘された人骨をみると
多きときは70%、平均でも15%は「暴力」が死因だった。
近代国家になって状況は改善され、
宗教戦争に明け暮れた17世紀でも、
戦闘の結果死亡したのは2%程度だった。
更に20世紀になると世界大戦での死者を含めても0.7%、
2005年では0.0003%だったという。
大量殺人兵器が開発され、
世界中で紛争が続いているように見えても
以前に比べれば直接的な暴力で死ぬことは減っている。
理由の一つは、人類が戦争を防ぐための仕組みを
育ててきたことにあるのだろう。
特定の個人が恣意的に権力を行使することができないような
民主的な政治体制や権力の分立などの仕組みは
歴史を経て作り上げられた財産なのだと思う。
そして、本書の様な「物語」が広く共有されるようになったことも
理由の一つなのだと思う。
「何が正しいのか」という前提が、
そもそもフィクションなのかもしれないが
「人を暴力で服従させるべきではない」という「物語」が広がり
「暴力による死が減っている」という事実がある。
私自身は「良くなっている」のだと思う。
こういう、てらいのない真っ直ぐなメッセージは
価値のあるものなのだと思う。