毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

上達の法則 効率のよい努力を科学する

「効率よく上達する方法」だけではなく、

「何かで上達した経験が大きな意味を持つ」

ということを、認知心理学 の視点から解説しています。

 

「Googleで調べればいいのだから知識自体に意味はない」

というような意見に違和感を感じていましたが

本書の体系立った解説で、違和感の根拠が分かりました。

 

 

【タイトル】

上達の法則 効率のよい努力を科学する

 

 【作者】

岡本浩一

 

【あらすじ・概要】

「上達には法則がある」として効率的な上達を指南する。

また同時に「上達した経験」自体が大きな価値を持つことを説く。

 

能力主義と上達の法則

日々変化する世界についていくためには

変化を上回るスピードで知識・技能を習得する必要がある。

一芸に秀でることで「上達の一般法則」を身に付けると

他の技能の上達にも応用できる。

 

初級者から中級者になるまでは以下のステップを踏む。

 

・まず初めて見る。

・入門書を読む。

・対象に慣れ親しみ楽しむ。

そのうちに「技能の対象を有意味処理する能力」が向上する。

「有意味処理」とは意味を感じ取れなかったものが

心に訴えかけてきて意味を伴って処理されることをいう。

・学習の頻度を決め学習の場を見つける。

・自分の得意なものを見定める。

(将棋であれば矢倉が得意とか)

 

上達と記憶の仕組み

中級までと上級者には記憶の構造に違いがある。

 

上級者の記憶の特徴として

・必要な知識が長期記憶に蓄えられている

・必要に応じて長期記憶から検索できる

・検索した記憶がワーキングメモリで有効に使われる

といったことがある。

 

記憶のプロセスは、以下の通り。

①生の経験をアイコニック・メモリとして受ける。

②アイコニックメモリから有意味のものを

 ワーキングメモリに移す。

 ワーキングメモリは7チャンク、数秒の保持が限界。

③ワーキングメモリを長期記憶に残す。

 自己関与が高いほど長期記憶に残りやすい。

④必要に応じ長期記憶を検索し、

ワーキングメモリに移して使う。

 

長期記憶にある事柄が高度に関連付けられ

「スキーマ」が形成されると

情報を整理する「コード化」能力が上がる。

そうなると、より簡単に記憶することができ、

また記憶した内容を使うときも、

メモリの無駄遣いがなくなる。

 

例えば自動車の「坂道発進」で

初心者のうちは、

・半クラッチの技術

・動力が繋がった感覚の把握

・ブレーキを外すタイミング

などがそれぞれ個別のチャンクとして認識されるが

習熟してくると「坂道発進」という

一つのチャンクにまとめられる。

 

次に類似の技能を学ぶときに「あの感じ」

として想起できるし、

「坂道発進」だけで一杯にならずに

他のことに注意を向ける余裕も生まれる。

 

上達の方法論

 

①鳥瞰的認知を高める

まずは「得意」を深め、そこから周辺に広げていく。

例えばエクセルに徹底して習熟することで

パワーポイントの習得も楽になるなど。

 

また、言語化しにくい手続き記憶も含め

ノートに記録を取ることも有益。

 

「得意」が固まってきた段階で

概論書を読むと鳥瞰的な視点を得るのに役に立つ。

 

②理論的思考を身に付ける

未熟であるほど理論が役に立つ。

英語習得に時間をかけてきたネイティブに追いつくには

同じことをするのではなく、理論から入るのが速い。

 

③精密に学ぶ

一つのものに徹底的に取り組んでみる。

音楽であれば長時間かけて一曲を仕上げたり

文章であれば完全な模倣や暗記など。

思考のリズムや間まで学び取る。

 

④イメージ能力を高める

将棋盤を使わずに口頭だけで行う「目隠し将棋」は

難易度が高いがイメージ力を高めて上達に貢献する。

また他人の作品やプレーをみて、

感情移入するのもイメージ力向上につながる。

 

⑤達人の技に学ぶ

達人と触れることで、その「スキーマ」を感じ取る。

 

⑥広域コードと知識を拡大する

自分と類似しない人の個性について考えることで

自分のコード化システムの偏りを認識し枠を広げる。

 

スランプの構造と対策

スランプの原因は以下の4つに集約される。

 

①心理的・生理的飽和

 肉体的疲労が心理的飽和を起こすことがある。

 その場合は休むことが必要。

 感覚的欲求が強く、心理的に飽和しやすい人は

 精密練習の反復などでスキーマを維持するのが良い。

 

②プラトー

 上達が一時的に止まる段階が訪れるが

 ここで気持ちが折れてしまうことがある。

 知識の整理、技能の安定化、

 技能とコード連携の密接化、

 チャンク容量の増大などが内部で行われている。

 「後退していなければ進歩」と考え

 乗り切っていくことが必要。

 

③スキーマと技能のギャップ

 スキーマが発達し直観で局面が理解できても

 それを実現する技能が追い付かないことがある。

 

 あくまで進歩を目指すなら

 スキーマに合わせて技能を高める必要がある。

 

 進歩を諦める場合、

 あるいは目先の試合などで、

 まず安定させる必要がある場合は

 技能レベルに合わせてスキーマを再調整する。

 過去の手応えを思い出すような精密訓練が効果的。

 

④評価スキーマと技能のギャップ

  鑑賞眼の進歩に技能が追い付かない場合。

 鑑賞と自分の技能について二重のスキーマを持つのが有効。

 コーチとなる場合などは、

 自分の技能のスキーマは捨て

 評価のスキーマを研ぎ澄ます方が有益な場合もある。

 

 

上級者になる特訓法

 

①反復練習

 中級以上で基礎の反復が疎かにならないようにする。

 コードが豊かになった状態での反復では

 初期とは違った意味を発見できる。

 

②評論を読む

 他社の評論に触れることで、

 自分のコードシステムの一貫性を高める。

 

③感情移入する

 行為者に感情移入してみることで

 自分の評価というものを体感し始めることになる。

 

④大量の暗記暗唱をする

  コードシステムが形成された後の暗記は

 初期よりも簡単だし、

 記憶したものは「使える知識」となる。

 

⑤マラソン的な鍛錬をする

 例えば英会話なら、

 数週間英語しか使わない環境に身を置くなど。

 技能がある程度完成した段階で行うと

 技能が安定する。

 

⑥少し高い買い物をする

 道具にお金をかけてみる。

 ある程度までは価格と道具の表現力は比例する。

 また高価なものを使うこと自体が

 自我関与を高める。

 

⑦独自の訓練方法を考える

 はっきりとした部分的な目標がある場合

 その部分に特化した訓練方法を考える。

 

⑧特殊な訓練法の着想

 自分の強みや限界を把握できる段階であれば

 強みを伸ばす訓練、弱みを克服する訓練を

 考案することができる。

 

⑨独自訓練から基本訓練へ

 独自の訓練を考案できる段階になると

 基本訓練をするだけでも

 初級・中級者とは異なる洞察を得られる。

 

⑩何もしない期間を活かす

  睡眠や休憩が、コードシステムやスキーマを

 整理し一貫性を高める働きがある。

 

【感想・考察】

「意識的に訓練を重ねることで

知識をコード化するシステムが進化して

知識の吸収が速くなり

また知識を軽く使えるようになる」

というのは非常に面白い。

 

 

機械学習でスキーマを洗練させるだけではなく

単位当たりの情報密度を上げるというのは

情報科学にも応用できそうなアイデアだと思う。

 

どちらかというと「器用貧乏」な自分は

鳥瞰的な視点を持つことや理論的思考は得意でも

精密訓練やイメージ化の能力に欠けているようだ。

 

何か一つでも「超上級者」になることを目指してみよう。

壁を破らねば。

 

 

 

当ブログは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムであ「Amazonアソシエイト・プログラム」に参加しています。