毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

夢十夜

「こんな夢を見た」 で始まる十夜の物語です。

非論理的な内容な分、メッセージが隠されているように感じます。

メタファーから多様な解釈を許すエヴァ的な戦略なのかもしれません。

 

 

【タイトル】

夢十夜

 

【作者】

夏目漱石

 

【あらすじ・概要】

第一夜

男は「もう死ぬ」という女の顔を覗き込む。

女の死後、彼女の言葉通り墓を作り

百年再会を待った。

星の欠片に座り、昇り沈む日を眺め長い時を過ごす。

ある日、白い百合が男の前で花開く。

男は百合に口づけ「百年はもう来ていたんだな」と気づく。

 

第二夜

和尚に「いつまでも悟れぬお前は侍ではない」と

罵られた男は、置時計が鐘を打つまでに悟ると決意する。

悟ることができれば和尚の首を取り、

悟れなければ自害することを心に決める。

手にした短刀の切先に意識を集中するが、

雑念が離れず悟りに至らない。

そのうちに忽然と時計の鐘が鳴った。

 

第三夜

男は目の見えない子供を背負い道を歩く。

見えない筈の子供は周囲の状況を把握し、男を導く。

杉の木の根元に来た時「ここだ」と言い

「御父さんがおれを殺したのが、ちょうど百年前だ」と言う。

男は百年前に人を殺した自覚を持ち、

背中の子供は石地蔵のように重くなった。

 

第四夜

爺さんは紐状に丸めた手拭いを箱に入れ、

「手拭いが蛇になるから見ていろ」といい

謳いながら河に入っていった。

爺さんが対岸から上がってくるのを待っていたが

いつまでたても現れなかった。

 

第五夜

遥か昔、敵の大将に生け捕りにされた男が

死ぬ前に思う女に会いたいと告げ、

鶏が鳴くまでの猶予を与えられる。

女は馬に乗り男の元に向かったが、

天探女(あまのじゃく)の鶏の鳴きまねに

驚いた馬がつまずき、岩間に落ちてしまった。

 

第六夜

護国寺で仁王像を刻む運慶の周りに

現代(明治)の人々が集まっている。

見物人の一人は「運慶が仁王像を作っているのではなく

木の中に埋まっている仁王を掘り出しているだけだ」と言う。

男は自分でも木の中から仁王を見つけようとするが

いくら彫っても見つからない。

ついに明治の木には到底仁王は埋まっていないと悟る。

 

第七夜

行き先の知れぬ船に乗っていた男はいたたまれなくなり

海に身を投げて死ぬことを決意する。

ところが甲板から離れた瞬間に命が惜しくなり後悔する。

「どこに行くか分からない船でも、乗っている方が良かった」と

落ちる瞬間になって初めて悟る。

 

第八夜

床屋で髪を切られながら、鏡越しに街の風景を見る。

パナマ帽をかぶり女を連れている庄太郎、

喇叭を鳴らす豆腐屋、札を数え続ける女など。

様々な金魚を入れた桶の後ろに座る金魚売は

男が見ている間少しも動かなかった。

 

第九夜

幼い子を持つ妻は、侍である夫が家を出てから

夫の無事を祈り願掛けをする。

弓矢の神である八幡宮でお百度参りを繰り返すが

その頃夫は既に殺されていた。

そんな話を夢の中で母から聞いた。

 

第十夜

健さんは「庄太郎が女にさらわれた」という。

女は断崖に飛び込めと命じるが庄太郎はそれを拒む。

飛び込まなければ豚に舐められると女は言う。

豚を忌み嫌う庄太郎だったが、

断崖に飛び込むことはできない。

迫りくる豚の鼻先をステッキで触ると

豚は絶壁に下に落ちていった。

しかし豚は幾万匹と数え切れぬほどの群れを成し

庄太郎は七日目に力尽きて豚に舐められ絶壁の上に倒れた。

 健さんは「だからあまり女を見るものではない」という。

庄太郎のパナマ帽は健さんのものになるのだろう。

 

 

【感想・考察】

 解釈の仕方は色々あるのだろう。

 

強烈な死への意識や「願いはかなわない」という諦観が

通底しているとは思う。

 

日本的な情感が、どこに導かれるか分からない西洋の勢いに

飲み込まれてしまうことへの恐れもあったのだろう。

 

第一夜では、死に向かう女の願いを聞き受け、

百年の後に再開を果たした男の物語を美しく描いている。

一方、第十夜では、女の理不尽な願いを拒み、

数日の後に死に追いやられる庄太郎の様子を醜く描写し

対比させているようだ。

 

床屋の鏡の視界のようなもどかしさの中で、

日々迫りくる豚を弾き落とすような慌ただしさを憎みながら

日本の伝統的な情景は美しかったというフィクションにも

浸りきれない冷静さが漱石には会ったのだと思う。

 

 

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