利他学 小田 亮
人間の利他的な行動を進化心理学の観点から分析した本です。
利他の心を、仮説と実証という科学の手法で解き明かそうとしています。
【作者】
小田 亮
【あらすじ・概要】
人間が利他的行動をする「しくみ」を「機能」からの
リバースエンジニアリングで解き明かそうとする。
進化論的な環境適応をベースにしている。
・心も進化論的適応環境で進化する
遺伝子が次世代に存続していくための行動デザインのため心のあり方も進化する。
・血縁個体への利他行動
子や兄弟など、血縁のあるもののために「自分のためにならない行為」をするのは、遺伝子の適応を考えると理解できる。
・「互恵的利他行動」
血縁の無い関係であっても「困ったときに助け合う」、「お互いさま」の考えで、相手を利することは結果的に自分を利する。
相手から直接お返しを受ける互恵と、巡り巡るような「間接的互恵」がある。
・裏切り者の排除
互恵的な社会の中で、利己的な人を許すと崩壊するため、「裏切り者」をは次女する仕組みが必要。
・マルチレベル淘汰
個人レベルだけでなく、集団のレベルでも淘汰は起きる。
長期的に見れば、利己的な人だけの国は滅び、利他的な人の国は維持できる可能性が高い。
・「目」が利他性を高める
実験では、「ホルスの目」などがある部屋に置かれた被験者の方が、利他的行動をする傾向が高くなった。
・他人からの評判を気にする
「目」の存在が利他的行動に関わるのは、「評判」が気になるから。
この人は「利他的人間である」という評判は、社会で有利に働く。
・鏡と利他性
鏡のある部屋に置かれた被験者では利他的行動に有意な差はなかった。自意識と利他性の関係はまだ不明。
・利他主義者、裏切り者検知のメカニズム
表情や手振りなどから利他主義者を区別する能力がある。
表情などは言葉と比べても、偽装のためのコストが高い。
・互恵的利他行動を支える感情
「感謝」、「義憤」、「罪悪感」、「同情」などの感情が支える。
・利他行動の起源
「共同繁殖」による、子供の世話や食料の分配などを通して、他個体への寛容さが増し、利他行動へ結びついたのではないかという見解。
複雑な食料獲得方法によるエネルギー収支の偏りが、相互協力を不可避にしているという見解。
・老人介護
繁殖期を過ぎた老体を介護することは、適応的には無意味。
「感謝」や「罪悪感」の感情の働き。
・脳が対応する社会規模
だいたい150人前後が脳が対応できる社会の規模。
【感想・考察】
利他的行動を科学的に解き明かそうとしている。
結果としては、
「情けは人の為ならずだよね〜」とか
「自分勝手な人は雰囲気で分かる!」とか
「列に割り込んでくるヤツはマジむかつく!」とか
ごく普通の感覚に帰結する。
ただ、自分の心がそう動く理由を考えていくことに意味がある。
利他的であることを神聖視し過ぎてはいけないし、
余計な葛藤を減らすこともできるだろう。