少年と木
大人向けの童話です。
夢の中で子供の頃を追体験するように、あの頃の「公園」を思い出す作品でした。
【作者】
高山環
【あらすじ・概要】
母親と公園にきていた5歳のぼくは、見知らぬ少年に導かれ、いつもとは違う公園に辿り着く。
少年はぼくに「公園は誰でも入れるし、好きな時に誰でも出ていける。誰も決してそこにはとどまれない。公園はいつか出ていく場所だ」と告げる。
公園の中にあるトンネルに入った少年をぼくも追う。暗闇の中で恐怖するぼくに少年は「暗闇には何もいない。暗闇に何かを作り出すのは君自身だ。想像する力は大事だけど、時に想像力は要らないものも作り出してしまう」といい「背筋を伸ばして、一歩ずつ進む、勇気が必要だ」とほほ笑む。
少年はトンネルを抜けた先にあるライオン像の口から、オレンジ色に光るクルミを鳥だしぼくに渡した。
小学校に入ったぼくは、その小さな世界にある暴力や嘘に驚くが、クルミの光をみて穏やかさを取り戻していた。
ぼくが10歳の頃、サッカーを覚えて心と体が強くなり、一度遅れた勉強にも必死で追いつく。それでも母親との距離を感じたぼくは、クルミが光を喪っていることに気づき、またあの時の公園を目指す。
辿り着いた公園でトンネルを抜けたが、少年はそこにはいなかった。少年に会いたい思いを込め振り向くと、そこに一本の木を見つける。ぼくは、かつては少年だったその木にクルミのお礼を言い、まだ力が必要だとお願いをする。木はぼくに青い光を放つクルミをくれた。
小学校卒業を控えた12歳の頃、ぼくはサッカークラブのキャプテンとして自信をつけ始めたが、将来に不安を感じ、自らの内側に生じた恋心に戸惑っていた。
そんな時に一羽の鳩が白い木の枝をぼくの元に届ける。この枝は少年がぼくに託したメッセージだと気付いたぼくは、三度あの公園に向かう。
公園では、しゃべるカメに枝を食べられてしまうが、カメの口のトンネルを通ってかつて少年だった木の元に辿り着く。
大きく成長していた木の前に立ち、ぼくはクルミを返す。
【感想・考察】
高山環さんというのは、実にたくさんの引出を持った作家だ。
社会的な問題を取り上げたミステリ・サスペンスから、少年少女の内面の葛藤を描くような童話まで幅広く、どれもクオリティが高い。
本作での「ぼく」は、強くたくましい少年なのだと思う。それでも世界に対峙していくためには、拠り所が必要なのだろう。
拠り所としての「公園」はぼくに力を与えてくれるけれど、いつかは旅立たなければならない。闇を恐れない勇気を身につけなければならない。
でも、既に「公園」から離れた大人たちも、時には少し立ち寄ってみるのも悪くはないと思う。
【オススメ度】
★★★★☆