詐欺の帝王
かつて「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれた本藤彰(仮名)のインタビューを通じ、裏社会のお金の流れや携わる人々の考え方を解説する本です。
本書からは「詐欺の手口を広め、被害者を減らす」というより「裏社会への嫌悪を強め、加害者を減らす」という方向性を感じました。
【作者】
溝口敦
【あらすじ・概要】
本藤(仮名)へのインタビューや調査を通じ、裏社会での「金の稼ぎ方」、「行動哲学」が浮かび上がる。
本藤は大学のイベントサークルで「キャンパス・サミット」を企画運営し、累計数十万人を動員する実績を上げる。イベント会場となるヴァルファーレなどの「箱屋」との交渉を引き受けることで、暴力団との繋がりを持つことになった。ただし、本藤本人は暴力団に所属することはなかった。
大学卒業後は大手広告代理店に就職するが、かつてケツモチをしていた「スーパーフリー」によるレイプ事件の影響で左遷され、そのまま退職してしまう。
一方、当時の暴力団では「組の名前を出す恐喝」などが締め付けられ、シノギとなるのは薬物かヤミ金だった。関東圏では山口組系の「五菱会」が有力だったが「スーパーフリー」の事件と前後して、本格的な摘発を受け壊滅的な状況だった。
本藤はヤミ金に可能性を感じ参入を決意する。警察の目が五菱会に向いているうちに足場を固め、五菱会から離脱したヤミ金社員を吸収しながら拡大していった。またヤミ金での売り上げ達成のために、貸していない金を取り立てる「架空請求」を行う店が出始め、それを参考に「オレオレ詐欺」に転換していく。
「ヤミ金」も「オレオレ詐欺」もトバシの携帯、架空名義の銀行口座など必要なインフラは共通で、移行は容易だった。また「一度引っかかった被害者を徹底的にしゃぶりつくす」という戦術も共通していた。
リスクの多い世界の中心にいながら、本藤自身は殺されることも逮捕されることもなく過ごし、危険が迫る前に詐欺から足を洗った。
【感想・考察】
著者曰く、オレオレ詐欺は「中途半端な悪人」が手掛けるものだという。
現代では高齢者が既得権益にしがみ付き、また富の偏在が進むことで貧困から抜け出せない若者がたくさんいる。若年層の中には糊口を凌ぐため手段を選ぶ余裕のない者もいるのは間違いないと思う。
ただ「ため込んで使わない高齢者からお金を引き出し、社会に循環させることで貢献している」という彼らの理屈には納得できない。実際には「ヤミ金」にしても「オレオレ詐欺」にしても、貧困層同士が食い合っているようにしか見えない。
そういう目的であれば本物の富裕層から「合法的に」資産を引き出す方法を考えるべきであろう。
【オススメ度】
★★★☆☆