毎日一冊! Kennie の読書日記

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愛玉(あいだま): 9つの超短編小説集

 9つの少し不思議な短編集です。表題作の「愛玉」をはじめ、男女や家族の「愛の形」を描く作品が大部分です。

 それぞれの話が「暖かさ」や「怖さ」など、何かの痕跡を心に残していきます。印象深い作品集でした。

 

【作者】

 高橋熱

 

【あらすじ・概要】

 9つの短編集。 

 

・愛玉

  家族からの愛情を感じられない男は「愛玉」が100均で買えることを知る。試しに家に持ち帰ったところ、妻や娘の態度も変わり家庭に久々に幸せが満ちた。100均で買う「愛玉」は1日もするとしぼんでしまう。長期間使える「愛玉」は高価で男の手の届くものではなかった。

 「愛玉」がなくなり家庭は再び殺伐とするが、そんな中でも男は妻にお粥を作り、娘に夕食を作る。

 「愛玉」はお金をかけずとも作り出すことはできる。

 

・奇痒譚

 幼少の頃から「むず虫」が痒みを引き起こす女性。成長し就職した先でも、彼女は痒みから頻繁に席を外し、職を失ってしまう。結婚後も「むず虫」が時を選ばず現れ、夫との関係も崩壊してしまう。

 

・バレンタイン騒動

 バレンタインの前日、仕事から帰った男は妻と小学生の娘の諍いをみる。

小学生の女子にとって「友達がみんなやっている」ように手作りのお菓子を準備することは絶対に必要なことだが、毎年のように娘の無茶に付き合わされる妻は本気で怒っている。

 家を出てしまった妻とひたすら涙を流す娘の様子を見ながら、お菓子のメーカ戦略に怒りを覚えながら、チョコレートの包装を手伝う。翌朝、前日の喧嘩はなかったかのように振る舞う妻と娘。前日のチョコといつの間にか出来ていた焼き菓子を梱包する。

 

・壁画の娘~銀座ライオンの恋

 「銀座ライオンデートをすると1か月以内に分かれる」というジンクスがある。男は恋人から、このジンクスに挑戦してみようと言われる。

 ライオンでのデートで恋人は「壁に書かれた後ろ姿の女性の顔をどうしても見たいとき、あなたならどうするか」という質問を投げかけられる。

 

・気の毒な老人

 老人の右足が壊死し切断を余儀なくされる。人生を共に歩んだことを感謝しながら右足を供養する。つづいて左足、右手、左手と順番に使えなくなり、ついにはずっと寄り添った妻も失ってしまう。

 最終的には頭だけになり亡くなっていた老人を「気の毒だ」と葬儀スタッフは言うが、自分の体や妻に感謝しながら世を去ることができた老人は本当に「気の毒」だったのだろうか。

 

・名刺奇聞

 男はラブホテルの前で女性の名刺入れを拾う。男は名刺の女性に連絡し「不倫現場を見た」と脅して、関係を強要する。翌日、女性から男の会社に連絡があり「結婚するか手切れ金を払え」と要求してくる。男は拒否するが女性は徐々に包囲網を狭めていく。

 

・男と女が再びホテルで会う理由

 男は数年ぶりにかつての不倫相手と会う。男の娘が通うタレント養成所に影響力を持つ女の援助を得るための誘いだった。男と女はお互いに騙しあいを続ける。

 

・『マアクンとコウタン』

 人生に疲れた男は、駅で線路に飛び込む寸前に線路わきに置かれたくまのヌイグルミと目が合う。ヌイグルミに見つめられた男は不思議と安堵し、自殺を思いとどまる。

 ある日ヌイグルミが撤去されたことに気づいた男は、できるだけ似たくまを探し、夜間の駅に忍び込み線路脇に置こうとする。そのとき以前のクマを置いた少女と出会い、少女のくま「マアクン」と男のくま「コウタン」を線路脇に並べる。

 

・螺子(ねじ)

 男はかつて親が経営する螺子会社で働いていたが、火事で工場が焼失した後、中卒でできる仕事が見つからず苦しんでいた。

 夜間に原付を運転していた男は、自転車の女性からカバンをひったくってしまう。カバンには金目のものはほとんどなかったが、中学時代の先生の持ち物だったことが分かり、こっそり返しに行こうとする。

 先生は認知症を患っており、昨夜自転車に乗っていたのはその娘だった。中学時代の彼を理解し支えてくれた先生に、男は語り掛ける。

 

 

【感想・考察】

  「愛玉」と「壁画の娘~銀座ライオンの恋」の2編が特に好きだ。

「愛玉」では、愛を買うだけの財力がない自分に苛立つ男が、愛を作り出すまでの描写が暖かく優しい。「壁画の娘」では「後ろ向きの女性の顔を見るために何をするか」の答えが、これもまた優しい。

 一方で「バレンタイン騒動」や「名刺奇聞」など、ザラリとした不気味さが残る話もある。

 様々な「愛の形」を描く作品集として、人の心のに併存する「美しさ」と「醜さ」の両方を書き出そうとしたのだろう。

 

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

 

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