空っぽな未来
「誰かを助けたい」、「何かを成し遂げたい」と思うなら、そこに向かう「情熱」が勝負を分けるのだ、という作者の想いが伝わってきました。淡々としたストーリー展開ですが面白いです。
モチーフになっているロダンの「地獄の門」が雰囲気を表しているようです。
【作者】
高山環
【あらすじ・概要】
ウサギの出産が気になり早朝に登校した小学生の少年 小山は、校庭に整然と並べられた机を発見する。
その20年後、外資系企業の人事担当となった小山は「雑誌で小山の名前を見た」とという当時の同級生織田和美と再会し、やがて付き合い始める。
大学で言語学研究室に勤務する織田は「言葉が枯渇する」ことを恐れ、言葉が自分の心から乖離していることに苦しんでいた。小山は人事面接官としての経験から極めて分析的に相手を見ているが、織田の心に踏み込みことができない。いつしか二人の間は広がり織田は「あなたは私とは違う」と言い、小山のもとを去っていった。
【感想・考察】
冷静で理知的な小山は深く織田を愛していたが、「狂気をはらむ情熱」に負けた。小山が出会った時点で織田自身も狂気の中にいて、小山が彼女を救うのなら、彼女の心に届く言葉を探すことではなく、彼女を絶対に放さないという情熱が必要だったのだろう。
「言葉が枯渇する」という考えは荒唐無稽に思えるが、安直に使っていくことで「言葉が心を動かす力」が枯渇してしまうという、小説家視点の恐れであれば理解できる。その上で「人を動かすのは言葉の力ではなく情熱」だと着地させているのは素晴らしいと思った。
【オススメ度】
★★★★☆