ピーカブー!
新潟を舞台とした四季の短編のうち、本書には秋・冬の2編が収められています。不気味さと暖かさが混在する名作です!
【作者】
ヤマダマコト
【あらすじ・概要】
2編の短編集。
・アサギマダラ
紅葉が深まる森の中、小学生の悟の中に何者かの意識が流れ込んできた。悟は意識の中の同居人に気づくことはなかったが、見たことがないはずの蝶「アサギマダラ」の絵を描くなど、誰かの干渉を感じることはあった。
やがて悟は学校でいじめにあうようになり、波風を立てぬようやり過ごしていた。だがある日、悟は暴力でいじめに反撃し、その時から「力」で世界を服従させることを覚える。同級生たちは悟から離れていったが、自分と同じように力を頼る高校生の「杉崎」を慕うようになる。
母子家庭に育った悟は、母親が自分を邪魔に感じていることを知り家を飛び出す。逃れた辿り着いた廃屋で、悟は杉崎の過去の話を聞く。
・変人たちのクリスマス
出版不況を受け、クリスマスイブに会社倒産を知った「俺」。かつて祖父から「自分はサンタクロースだ」と聞き信じた「俺」だったが、その祖父もすでに亡くなっている。今ではクリスマスの喧騒を憂鬱に感じる。
無職となったショックで家に帰りにくく、ふと焼鳥屋に立ち寄る。そこで出会ったオジサンからも「自分はサンタクロースだ」という話を聞かされる。
【感想・考察】
どちらの作品も面白い。
秋の話「アサギマダラ」は、少年の中に入り込んだ「第三者」の視点から、彼が「他社からの暴力」、「自らの暴力」に翻弄されていく様子を客観的に描いている。残酷な話だが最後には「救い」を感じることができる。
冬の話「変人たちのクリスマス」の方は、大分雰囲気の違うファンタジーだ。 「恋人たちのクリスマス」をもじって、「変人たち」を登場させたのだとは思う。
ただ、「戦場に散った戦友たちのため」派手な女遊びを続けた祖父、本物の「ミニスカサンタコス」ができることに喜びを感じる中年オヤジとか、フルフェイスメットを外せない無愛想だが親切な焼鳥屋店主とか、登場する変人たちは魅力的だ。
自分らしく生きる人は美しく、「多様性」を認める世界は優しい。そして彼らは「力」で世界と伍していく前編の少年たちよりも圧倒的に明るい。
二作品の作風はずいぶん違うが、面白い対比になっていると感じた。
【オススメ度】
★★★★☆
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