飛ぶ夢なんて、飛ぶ夢でしかないのに
夢の中を彷徨うような、心許なさと心地よさのある文章です。小説としてのストーリーはなく、メッセージが込められている風でもなく、純粋に雰囲気を味わう作品でした。
【作者】
淡波亮作
【あらすじ・概要】
6編の短編小説集。あまり筋だったストーリーはない。
・飛ぶ夢なんて、飛ぶ夢でしかないのに
泳ぐように空を飛び上空に浮かぶトラックを目指す。夢から目覚め、ミュージシャンである自分を思い出す。そこからまた目覚め、またトラックを追う。
・鱗の断片
船橋の砂浜を歩く。いつしかそこは砂漠となる。老人の売店では小エビもタオルも売れない。老女と出会い旅の目的を思い出した私は歓喜のうちにトマトを齧る。
・影の声
恐ろしい顔が自分を見ていた。同級生たちはだれも気が付かない。家に戻っても窓を開けるのが恐ろしい。
・翼がなければもっと羽ばたけばいい
少年は山のような粉をまき散らし、背中からは根を生やし飛び上がっていく。少年を見て自分も飛ぼうとするが、自分には羽はなかった。
・殺したのか、隠したのか
自宅の畳の下に死体を隠していたことを急に思い出す。いつ誰を殺したのかを覚えていないが、死体が埋まっていることは確かだ。
・天の外側で私をたたく
目覚めると古い家具に囲まれた部屋にいた。老婦人は天球儀を直すよう依頼し前気を払う。 天球儀の中に立ち上がる炎を消すことが直すことにつながるのか。
【感想・考察】
「意味」を汲み取ろうとすると疲れてしまう。「夢分析」などもあるように、人は全てのものに「意味」のタグ付けをして安心したいところがあるのだと思う。一方で「因果」の崩壊した世界に、心許なさと同時に開放感を感じることもある。
この作品では、空を飛び重力から解放されるような状況が多い。私自身もそうした夢をよく見るので、まさに夢の中を漂うような感覚だった。
ただ、ストーリーがない話を読むのはある意味体力がいる。意味を掴めないままイメージを拾うという作業に頭が慣れていないので、正直疲れる。読者を選ぶ作品だと思う。
【オススメ度】
★☆☆☆☆