タイムマシンを教えるために
タイムトラベルSF と 密室ミステリ を一緒に楽しめるお話です。赤井五郎さんの作品にしてはコミカルな雰囲気なのですが、最後まで読んでみると時間を超えた人々の思いが美しく描かれていて、いつも通り寂しさの残る感動を与えてくれます。とても面白い。
【作者】
赤井五郎
【あらすじ・概要】
タイムマシンの利用が厳重に管理されている近未来が舞台。
かつて新古細菌の研究をしていた 「カガ」という学者が事故死したことで、その後のパンデミックを阻止できず数百万人が犠牲になった。過去に戻り「カガ」の事故死を阻止しようと「トウドウ」が動く。
現代に戻った「トウドウ」は、「カガ」が事故死する予定の別荘に辿り着き、「カガ」の助手、ミステリ研究会の高校生、双一郎と杏子、別荘の管理人と、事件当日となるはずの夜を過ごす。
「カガ」を棚の倒れる部屋から引き離すことで、その日の事故は防ぐことができたが、彼女の命を狙った犯人を特定できなければ、翌日以降も危険が続く。犯人を特定しようとする双一郎たちだったが、棚のある部屋も隣接する部屋も内側から鍵のかかった密室でだれも出入りすることはできなかった。
【感想・考察】
超常的な「タイムトラベル」がある世界でも、理詰めで考える双一郎の探偵スタイルがちゃんと機能している。密室トリックはともかく、ストーリーの全体像と「犯人」の意図を読み取っていくのはミステリとして楽しい。
同時に「目的のための、長い時を超えた献身」の切ない美しさを感動的に描いている。世界観はそれぞれ異なっていても、この切ない読後感はどの作品にも共通していて、大きな魅力になっている。
【オススメ度】
★★★★☆