孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術
ソフトバンクで孫社長の補佐をしていた著者が「数値化」の力を語ります。 実用的な話が満載で、間違いなく有益な本です!
【作者】
三木雄信
【あらすじ・概要】
「問題を数値化することで解決する技術」を簡潔に伝える。
数値化の効用
・具体的なアクションが見える
大目標を具体的な数値に落とすことで具体的アクションが見えてくる。
例として「痩せる」という目標を「3ヶ月で6kg痩せる」→「1週間ごとに500g痩せる」→「1日 520kcal減らす」→「夕食の主食を抜き、2日に一度5km走る」など、具体的な行動に落とし込むことができる。
・数値化で手をつけるべき問題が見える
漠然と努力することで問題を解決するのではなく、問題を適切に分割し数値化することで手をつけるべきポイントが分かる。大体は2・8の法則に沿っていて、上位の問題を片付ければ大部分がうまくいく。
例として「Yahoo BB」のADSLキャンペーンでクレームが爆発していたが、問題を分割し「モデム品質」、「営業品質」、「操作方法の分かり難さ」などから頻度が高いものに優先順位を置いて解決した。
・声が大きい人の意見に引っ張られない
上位の人が言ったことや、決定権者の好き嫌いで決めるのではなく、数値を用い客観的に示せるものを元に判断することができる。
数値化仕事術のポイント
・数字は自分で取りに行く
既存フォーマットに従うだけではなく、自分が説明しようとすることのために、主体的に数字を集めに行く。
・「どうだったか」ではなく「どうするか」
結果報告ではなく、次のアクションにつながる数値に意味がある。
・まず「分ける」
「数える前に分ける」のが鉄則。最初はざっくりした分け方でも構わない。
・問題のありかが見えたらさらに細かく分割し計測
どんな大きな問題も、視点と終点の間をブレイクダウンして計測すればボトルネックが発見できる。
・数値化のゴールは問題を「数式で表す」こと
例えば「1平方メートルあたりの売上×店舗面積×営業日数」というのも数式での表現。店舗の場所による来店客数や、店員の熟練度なども数値に落とし込めれば、予測が精密に出せる。
・数値化したらPDCAを高速で回していく
見込みが違ったとしても「失敗」ではなく、「実測データを取れた」と積極的に考える。
・数字でのチェックを継続し、環境変化にいち早く気づく
重要な5つの数字
・顧客数
・顧客単価
・残存期間
・顧客獲得コスト
・顧客維持コスト
顧客単価と残存期間をかけたライフタイムバリューを重視し、顧客獲得コストを決めるべきだとする。
データ分析の7つ道具
・プロセス分析
各プロセスごとの歩留まりを計測し、ボトルネックに対応したKPIを定める。
・散布図と単回帰分析
2つの事象の関連度合いを分布図から判断する。エクセルを使った単回帰分析の手法と、近似曲線の「決定係数」について説明。
・重回帰分析
複数の要因を重回帰分析で判断し、もっとも関連性の高い要因を絞り込みベストな変数の組み合わせを見出す。エクセルのアドインを紹介している。
・パレート図分析
頻度の高い問題を明確にし優先順位を明確にする。これもエクセルでのパレート図作成方法を説明している。
・T勘定
作業の入りと出を貸借対照表のようにバランスさせてみる手法を紹介。これもどこでオーバーフローを起こしているかを明確にする。
・差異分析
計画と実績の差異を分析する手法。例えばWEB広告でクリック回数一万回の見込みが10200回で、クリック単価100円の見込みが120円になった場合、金額で見るとクリック単価上昇の影響が大きいので、クリック率を上げることが優先課題だと分かるなど。
・LTV分析
顧客単価×残存期間で算出するLVT(Life Time Value)を元に顧客獲得コストの掛け方を決めるべきだとする。単月の売上をベースに獲得コストを定めると利益を最大化できない。
数値化のワナ
・数字の単位、定義、解釈が曖昧
分母と分子が不明確な数字や、数え方などの基準が曖昧だと、意味のある客観的なデータが作れない。
・「分け方」が不適切
継続的な売上と一時的な売上をまとめてしまうなど、分け方が甘いと問題が見えてこない。
・計測している数字がゴールに結びついていない
膨大なデータを見ていてもゴールに結びつかなければ意味がない。まずはゴールを明確にし、そこから逆算して必要な数字を計測するべき。
・数字のマンネリ化
数字を取る仕組みができると「楽に取れる数字しか見ない」傾向ができ、状況の変化に即したデータが取れなくなっていく。
・数字の内向き化
社内の数字だけを見て、外部の環境変化から取り残されてしまう問題。KPIだけで安心するのではなく外の数字を積極的に取りに行くべき。
・PLANばかりでDOにつながらない
完璧な計画を立てるより、走りながら数字を検証していくべき。
・相反する数字を同時に達成しようとする
「売上」と「与信基準の厳しさ」など、相反する要素を同時に追い求めてもうまくいかない。売上拡大のステージであれば、まずは「売上」を優先するなどトップが判断することが必要。
・累積することで実体を覆い隠してしまう
月次数字に問題はなくても、最終週に集中する傾向がある場合、数字積上げに無理をしている可能性があるなど、累計だけでは見えない部分もある。
・平均化のマジック
「貯蓄額の平均値」などは高額貯蓄をする人が平均を引き上げてしまう。中央値を使う方が実態に近い場合もある。
・配賦の方法
コストを各事業所に配賦する場合、何を基準とするかを明確にする必要がある。
数字の理論・法則
・大数の法則と期待値
試行回数が増えれば期待値に近づく。「有利なサイコロ」を数多く振ること。
・鮭の卵
「数打てば当たる」を実践するために、一回当たりのコストをいかに下げるか。当たりの多そうなくじを選び、一回当たりのコストを下げる。
・72の法則
「複利の力」を利用する。72を平均成長率で割るとかかる年数が分かる。毎年5%の成長であれば約13年で2倍になる。
・限界効用逓減の法則
どのような施策もコストと比例して効果を増やすのではなく、ある時点で頭打ちになる。伸びない時は別の施策を打つことも必要。
・ダンバー数
安定した組織を維持できる個体数は100~230の間。
・マジックナンバー7
一人のマネージャーが直接見られる人間は7名程度。
・イノベーター理論とキャズム理論
物事の普及には、次の段階がある。
イノベーター (2.5%)
アーリーアダプター (13.5%)
アーリーマジョリティー (34%)
レイトマジョリティー (34%)
ラガード (16%)
イノベーター理論では16%を超えるまでが重要と捉えるので、アーリーアダプターへの訴求を最優先する。キャズム理論ではアーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間には深い溝(キャズム)があるので、一気にアーリーマジョリティーまでをターゲットとしたプロモーションが必要だとする。
ソフトバンクの3次元経営モデル
孫正義氏の実践する経営モデル。まずは顧客数を伸ばし線とする。次に顧客単価を上げて面とする。次に顧客獲得コスト、顧客維持コストを下げた利益構造を改善する。最後に残存期間を増やす施策を打ち、立体として体積を増やす考え方。
【感想・考察】
非常に分かりやすく、有益な情報に跳んでいる。 重回帰分析も個人レベル であれば、数百万もするツールを使わなくてもエクセルアドインでできることもあるのは素晴らしい。
本書で語られるのはサービス業を中心に捉えたビジネスモデルなので、製造業などの場合、顧客維持コスト(製造原価)が顧客獲得コスト(セールス・マーケティング費用)と比べ圧倒的に大きいため、考え方は違ってくるだろう。ただ、メーカも単純なモノづくりから、メンテナスや消耗品で利益をあげたり、関連するコンテンツのサブスクリプションで LTV(Life Time Value) を増やすことを重視する方向に動いているのも間違いない。
本書で数字は客観的で公平なツールだとしているが、孫正義氏くらい数字に対して感性が高いからうまくいっていたという面もあるのだと思う。残念ながら一般的には、理解力の薄い経営層が「恣意的な数字」に踊らされているのが実態だと思う。「嘘はつかないが、すべてを提示する必要はない」というような資料が多く、それを見抜けるような人間でなければ、数字に振り回されてしまうだろう。
そういう意味では、現場を担う若手も、中堅からトップまでの層も「数値」の使い方を学ぶ必要があるのだと思う。
【オススメ度】
★★★★☆