空白からの手紙
「愛するとはどういうことか」を問う、真っ直ぐな恋愛ストーリーでした。何度も轢かれるタクミさんは可哀そうですが、暖かさを感じるお話でした。
【作者】
黒崎充
【あらすじ・概要】
恋人の修造から別れ話を切り出されたマキは、自棄酒で泥酔したまま運転して人身事故を起こしてしまう。
事故にあったタクミは入院していた4か月間、毎日見舞いに来ていたマキと徐々に心を通わせるようになり、退院後二人は付き合い始める。
その頃、ヨリを戻したいと考えた修造はマキに復縁を迫るが、冷たく拒絶されてしまう。失意のうちに追突事故を起こした修造は、マキと復縁するための作戦を思いつく。
【感想・考察】
マキ、タクミ、修造、それぞれの愛の形が描かれる。「自分の願いを相手に投影する」のではなく「自己犠牲で自己満足する」のでもなく、「相手の幸せを願うこと自体が自分の幸せになる状態」こそが「愛」であるということなのだろう。
マキが修造と別れるのを恐れ無理に相手に合わせていたのは愛ではないし、事故を起こした罪の意識からタクミを見舞っていたのは愛ではない。ただ、自分が見舞うことでタクミを支えられていると感じ、タクミの力になれることを自分の喜びと感じられることを「愛」に近いものとして描いている。
また心理描写が面白い。著者は「筆力が足りない」からと言うが、一つのシーンを別々の視点で内面描写するのは、情景だけで内面を描くのと違う効果が出ていると思う。修造がヨリを戻そうとするシーンや、最終章でのマキとタクミの関係など、描写のされ方が新鮮だと感じた。
それにしても「飲酒運転人身事故から始まる真実の恋」というプロットはぶっ飛んでいる。昨今の社会情勢的にメジャーに受け入れられるものではなさそうだ。
まあ、酩酊状態で人身事故を起こせば危険運転致死傷罪で、最悪実刑の可能性もある。少なくとも数日間の拘留期間はあるので、事故翌日から毎日病院を見舞うのは現実的でないし、深く考えるものではないのだろう。
【オススメ度】
★☆☆☆☆