和菓子のアン
和菓子屋でバイトをするアンと仲間たちが、和菓子にちなんだ謎を解いていく「お仕事系ミステリ」。
「お仕事ミステリ」の職種がどんどん広がりますね。ちょっとした専門知識のトリビアと、人が死なない系の日常系の謎の組み合わせは楽しくて好きですね。
中でも和菓子というのは斬新ですが、ちゃんと謎になっていてなかなか面白いです。
【作者】
坂本司
【あらすじ・概要】
高校卒業後、デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でバイトをする 梅本杏子(きょうこ を アンと読む)が、和菓子のことを学びながら、お客や従業員たちがもたらす謎を解いていく5つの短編集。
・和菓子のアン
高校卒業後の春、アンは「みつ屋」でバイトを始め、店長の椿、社員の立花、バイト仲間の桜井たちと知り合う。
会社で出す菓子として「落とし文」を1個と「兜」を1個買っていった女性が、翌日に「水無月」を9個買っていった。店長の椿は女性客の会社での出来事を推理する。
・一年に一度のデート
お歳暮の忙しさを乗り越えたアンたち。8月の半ばに常連の老婦人がいつものように「松風」を買おうとするが、椿店長は「それを必要はない」と言う。老婦人は代わりに旧暦七夕で彦星と織姫を引き合わせる「鵲」を買っていく。
・萩と牡丹
秋を迎えたみつ屋に、ヤクザ風の男が訪れる。接客したアンは「腹切り」、「半殺し」などと言われ怯えてしまう。男が差し出した花札の「亥」は何を意味するのか。
・甘露家
年末を迎え特に用事のないアンは遅番に入る。ある日終業後にボヤ騒ぎが有ったが大事には至らなかった。その日はみつ屋の近くに店を構える洋菓子店の店員が、兄にケーキを持ち帰っていた。その店では翌日以降も兄にケーキを保管しているが、椿店長は不審な動きに気づく。
・辻占の行方
フォーチュンクッキーは「辻占」煎餅が起源だという。年明けに、ある女性が持ち込んだ「辻占」には、占いの文章が書かれておらず、何かの模様が印刷されていた。彼女は模様の意味を聞いてきたが、その紙は「みつ屋」の工場で入れられたものではなかった。
【感想・考察】
各話にトリビア的な豆知識が山盛りなので、どれがメインのミステリなの分からなくなるくらい。
和菓子は短歌や俳句と同じように「何も知らなくても、美しさを味わうことはできるが、歴史背景を知ると更に深く味わえる」というように、背景を知ると面白くなってくる。
また和菓子の作り方も、俳句のように「足し算ではなく引き算」で美しさを作り上げていく、というのはよく分かる。正直、味やボリューム感では洋菓子の方が好みだが、上等な練り切りの美しさは、洋菓子の細工とは異なる方向の美しさでだいすきだ。
クリームたっぷりのパンケーキは美味しいけれど、
和菓子の無駄を省いた美しさは素晴らしいと思う。
久しぶりに和菓子が食べたくなった。。
【オススメ度】
★★★☆☆