毎日一冊! Kennie の読書日記

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聴き屋の芸術学部祭

4編の短編小説集ですが、2話目の「からくりツィスカの余命」が突き抜けて面白かったです。劇中劇の台本にミステリを仕掛けるという切り口が上手くはまって、頭を使って考える快感を味わうことができました。

 

【作者】

 市井豊

 

【あらすじ・概要】

 人の話を聴くだけの「聴き屋」である柏木が、芸術学部のキャンパス周辺で起きた事件を解決していく4編の短編小説集。

 

・聴き屋の芸術学部祭

 「聴き屋」の柏木は、やたらとネガティブな「先輩」、遊女に仮装した川瀬と芸術学部祭を見ていた。3人が美術棟に入った直後、火災が起こりスプリンクラーの放水が始まった。展示されていた「先輩」の水彩画はダメになってしまう。柏木と川瀬が中を調べると、写真展示していた部屋で女子生徒が焼死していた。

 柏木は聴き屋として集めた情報から真相を推理していく。

 

・からくりツィスカの余命

 脚本家と仲たがいし結末部分を取り上げられてしまった「からくりツィスカの余命」の台本。困り果てた演劇部主演女優の月子は柏木に結末を考えるよう依頼する。

 

 「人形に命を吹き込むことができる魔女が森で人形たちと暮らしていたが、魔女の寿命が尽きようとしていた。魔女がエネルギーを込めなければ、からくりツィスカの寿命はあと数日で尽きてしまう。

 街にいる姫巫女も、魔女と同じ能力を持っていると人形たちが噂をする。ツィスカは街へ訪れることを決意する。

 この国の国防は数千の人形兵たちが担っている。普段は塔の中で眠っている兵士たちに姫巫女が命を吹き込むことで戦いに挑む。数年前の隣国からの侵略も人形兵が撃退しており、姫巫女は国民から崇められていた。

 街に辿り着いたツィスカは、姫巫女をたたえるパレードを見たが、一部では姫巫女の力も衰えているのではないかという噂もあった。

 そんなとき、急遽隣国が攻め込んできた。数少ない騎士と急遽集めた民兵が応戦するが、戦力差は圧倒的だった。姫巫女のいる城と人形兵の塔との距離の問題もあり、人形兵が辿り着くのには丸一日以上はかかり、民兵たちは持たない。そもそも、今の姫巫女に人形兵を動かすことができるのかも疑問だ。」

 

 という、絶体絶命のポイントで台本は終わっていた。「絶対にハッピーエンドにしないとダメだ」という月子の注文を受け結末を考えるが、柏木はふと台本に仕組まれた鍵に気が付く。

 

・濡れ衣トワイライト

 肌寒くなってきた日の夕方、部室で昼寝をしていた柏木の元に、模型部の牧野が訪れる。模型部紅一点の成田が丹精込め作っていた「宇宙ステーションの大型模型」が破壊され、その容疑をかけられたので真犯人を見つけて欲しい、との依頼だった。柏木は「安楽椅子探偵」のごとく、話を聴きながら真相を推理していく。

 

・泥棒たちの挽歌

 柏木たちのサークルは箱根の温泉旅館に来ていた。宿泊客の話では最近周辺に「少年窃盗団」が出没しているという。

 柏木たちは宴会後に露天風呂に向かうが、そこで窓から侵入しようとしている二人組のド老棒を発見する。

 

【感想・考察】

 話を聴くのが特技だという「聴き屋」の設定がほとんど活きてないとか、ヒロイン役かと思った「先輩」がいつの間にかフェードアウトしていたり、いかがなものかと思う部分はあるが、細かいことは関係なくなるくらい「からくりツィスカ」の話はダントツに面白い。

 劇中劇の形をとることで、「地の文と会話文の違い」や「場面ごとでの呼称の違い」など、叙述上の仕掛けが強調されていても違和感がない。「読者への挑戦」がはっきりしていて楽しめる。結末が分かった後にすぐに読み返してしまった。

 それに加え、ツィスカの住むファンタジーの世界がとても暖かくて美しく、この中の話だけでも十分なりたくくらいの魅力がある。

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

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