その悩み、哲学者がすでに答えを出しています
「普遍的な悩みには哲学がすでに答えを出している」という本です。悩みへの回答というのはあまりに「哲学的」過ぎて直接役に立ちそうではなくて、哲学者たちの思想やそこに至る背景を説明した概説書という趣が強いです。
【作者】
小林昌平
【あらすじ・概要】
古代バビロニアの粘土板に彫られた内容が悪徳商売への文句だったり、メソポタミア文明でパピルスに残されていたのが仕事の愚痴だったり、人の世の悩みは数千年間大きく変わらず、仕事、健康、家庭、お金などに集中している。
現代人が持つ悩みも、古今の哲学者がすでに答えを出しているとして、全部で25個の悩みとその解決をそれぞれ解説している。
特に印象に残ったものは以下の通り。
・「忙しい、時間がない」 アンリ・ベルクソン
ベルクソンは新しい時間感覚を提言した。手帳の隙間を確認するように時間を空間的に把握することに慣れているが、主観的に「純粋に持続する」時間を持つことでより濃密に過ごすことができるという。
・「やりたいことはあるが、行動に移す勇気がない」 ルネ・デカルト
デカルトは「方法序説」の中で、学問探求の方法を考案し「証明、総合、枚挙、分割」を挙げている。取り組むための出だしとしては、課題を分割し個々のサブゴールを達成していくことを提案している。
・「思い出したくない過去をフラッシュバックする」フリードリヒ・ニーチェ
ニーチェは「幸せで楽しい経験も、思い出したくない失敗も巡っている」と「永劫回帰」の観点で捉え、どんな運命でも「愛せる」という。
・「やりたいことがない。毎日が楽しくない」 道元
道元は「何でもない日常にこそ悟りを得る機会がひそんでいるという」目的のための手段が延々と連鎖するのを断ち切り、何かに役立てるのではなく「今ここ、この自分に徹する」ことが悟りの道だという。
【感想・考察】
挙げられている悩みは具体的なのだが、 それに対する回答は抽象度の高い哲学的なもので、具体的な行動には落としにくいものが大半だった。
どちらかというと「その哲学者はどのような経験をし、どのような背景でこの思想が生まれたのか」という部分が新鮮で興味深い。また回答の後に入る注釈部分にも著者の考えが表れていて面白い。
少し切り口を変えた哲学入門の一つと捉えると良いのだと思う。
【オススメ度】
★★☆☆☆