これからの政治をゼロから考えよう おだやかに民主主義を取り戻すための5つの論点
行き詰っている感のある「民主主義」に未来はあるのか、幅広い視点からてみ提言している本です。短いですが内容は凝縮されています。
【作者】
佐々木俊尚
【あらすじ・概要】
以下の5つの論点から民主主義について語る。
論点1:権力は強大なのか
21世紀に入り権力構造が変化してきている。大きな権力というよりネットワーク的な相互作用で世界が動くようになっているという見方をしている。
論点2:誰が正義を決めるのか
自分の正義に固執し、議論が成り立たないような状況が増えている。民主主義は「多数決」が鍵なのではなく、そこに至るまでの「議論」に意味がある。「正義はフェアであることが必要だと」し、ジョン・ロールズの「正義論」から、以下の点を挙げている。
・基本的に人は自由
・平等であるためチャンスは誰にでも与えられる必要がある
・一番困っている人が「今のところ不平等でも、その方が平等であるより暮らし向きが良いので、不平等でも構わない」と考えたときだけは不平等が許される。
論点3:助けられるのは誰か
守られるべきは弱者だが、悪平等となり「伸びゆく人」を押さえつけてはいけない。「伸びゆく人」に十分機会を与えながら、その成果を社会に還元するような仕組みを作ることが必要。
論点4:誰が政治を担うのか
低成長の状況下で従来の「政治・官僚・マスコミ・業界・市民」のダイナミズムが変化している。ポピュリズムは極端に振れがちだが、見逃されていた弱者が発見されることもある。タレントのコメンテイターが分かりやすく善悪を述べるよりも、隠れた弱者を見出すような自由な議論が必要。
論点5:民主主義に未来はあるのか
政治は感情に走りやすいので、リーダとなる人は感情・理論に加え信頼を重視する必要がある。思想的リーダと市民の相互信頼を築き上げていけば、現代に即したより良い民主主義は可能。
【感想・考察】
元新聞記者として政治的発言には、自分の正義を振りかざす人の感情的な反感を引き起こしがちであることを体験しているのだろう。相互信頼を得てから、理論を出して議論すべきというのは、先日読んだ弁護士の本にあった「まず感情に対処し、次に理論で説得し、最後にも相手の感情を処理する」という流れに近いものを感じる。
ネットワークの相互関係が世界を動かすと考えると、非常に複雑でシンプルな方法でコントロールすることは難しい。実際には小規模の集団でも十分に複雑な力学で動くので、大きな組織をシンプルに操作することは現実的ではないのだろう。
であれば、ネットワークのインフラを握る部分と、非常に抽象度の高い部分で思想的リーダとなる人が重要になるのだろうか。
【オススメ度】
★★☆☆☆