すべては「裸になる」から始まって
元AV女優の森下くるみ氏による自伝的なエッセイです。
AV女優としての仕事内容がつまびらかに書かれていて興味深いです。また父親との確執や、それを乗り越えていく姿は私小説としてもとても面白かったです。
【作者】
森下くるみ
【あらすじ・概要】
幼少の頃から情緒不安定な父親のDVを受け、家庭内で安心感を持てなかったという著者。高校時代には母親をけしかけ父親と離婚させた。人生で一番嬉しかったのは「父親が家を出ていった日」だという。
高校卒業後に上京して就職をしたが、スカウトを受けてAV女優となったことから、新しい人生が展開していく。
自分の殻に引きこもりがちだったが、ビデオ会社(SOD)の監督や社員たちと接しながら、徐々に社会との関りを取り戻していくように見える。
東京で父と再会し「時々は一緒に食事をする」ような関係になる。父親に対する過去からのわだかまりは解けず、不信感が消えていない。その一方で父親の自分に対する情愛を感じ、それを信じたいという想いも読み取れる。
【感想・考察】
人生のある時期まで、家族との関係が大きな影響を及ぼすのは間違いない。どこかのタイミングで上手く自立していくことが大事なのだと思う。
親の保護の下にあった時期には、父の感情の揺れに大きく影響され「親としての責任を果たしていない」父親を憎んでいたが、自立して生計を立て親に依存する必要がなくなった状況では父親を「不器用だけれども自分を大事に思ってくれる人」だという捉え方になっている。
以前読んだ「虫食いの家(うち)」では、「家族であることをあきらめて、父親と適当な関係を持つことができた」というような表現だったが、依存関係を抜け自立した人間同士として対峙したときに初めて建設的な関係を築けるのだろう。
著者の場合は「裸になる」ことから、自分自身として生きることが始まったのだと思える。
【オススメ度】
★★★☆☆