毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

漫画 君たちはどう生きるか

 昨年くらいからタイトルをよく見るので読んでみました。原著は80年以上前の1937年 に発行されたものです。日中戦争がはじまり二・二六事件が起きた年で、戦争に向けた思想統制が動き始めた時期だと思っていましたが、このタイミングで「自分の経験から始めて自分の頭で考えろ」というメッセージを発しているのはすごい。広く読まれるべき本だと思います。

 

【作者】

 吉野源三郎(原作)、羽賀翔一(漫画)

 

【あらすじ・概要】

「コペル君」と彼を立派に育てることを託された「おじさん」の話。コペル君の生活場面は漫画、おじさんからコペル君に送ったノート部分は文章で書かれている。

 コペル君がいじめを受けているクラスメートたちとのかかわりの中で、自分なりのものの見方・考え方を確立するよう、おじさんが手助けをしていく。おじさんのノートにあった項目を書き出していく。

 

・ものの見方について

 銀座のビルの上から街を見ていたコペル君は、行き交う人々を分子のようだと感じ、自分自身もその一部だと感じる。「自分を中心とした世界観」から「自分を相対化した世界観」への移行を、おじさんはコペルニクス的転換だと讃える。「コペル君」という呼び方もここからきている。

 

・真実の経験について

 クラスメートの浦川君がいじめを受けていることに耐え切れず、北見君がいじめっ子に反撃をする。浦川君は北見君がいじめっ子に暴力をふるうのを見て必死に止める。コペル君は北見君の行動に感激し、浦川君の行動にも心を動かされた。

 おじさんはコペル君がどういう出来事から何を感じたのか、ごまかさずに考えていく必要があり、それこそがコペル君自身の思想になるのだと伝える。

 「常に自分の体験から出発して正直に考えてゆくこと」、「世間の目よりも何よりも、自身がまず、人間の立派さがどこにあるのかを知り、心から立派な人間になりたいという気持ちを起こすこと」が大事だという。

 

・人間の結びつきについて

 ニュートンがリンゴの落下を惑星運動のレベルまで敷衍して考え万有引力の法則を導き出したことを聞いたコペル君は、「粉ミルクが家にやってくるまで」のことを敷衍して考え、人間同士の関係が網の目のように関わり合っていることに気づく。そして関係が広すぎるためお互いが見えなくなっていることに違和感を抱く。

 おじさんは、生産関係が複雑になっていた歴史的経緯を説明し、コペル君が違和感を覚えた「お互いの関係が見えにくくなっている」ことが、人間らしさを失わせ訴訟や戦争が起きる遠因になっているとも考え、将来のコペル君への課題とする。また、この考えに自分自身で至ったことを高く評価しながらも、「生産関係」の考え方は経済学の基本で広く知られていることであり、すでに発見されたことの再発見よりも、新規の発見を目指すべきだとも伝える。その為には、今までの学問の成果を知る必要があり、それもまた若者が学習をする意義であるとする。

 

・人間であるからには

 浦川君は父親の仕事を助けるため登校することができないでいた。コペル君と比べて貧しい状況に置かれた浦川君だが、貧しいこと自体を見下してはいけないという。貧しさゆえに卑屈になった精神は良くないが、貧乏だが高潔に生きている人もいる。実際に手を動かし物を作り出し世界に貢献している人々に敬意を抱いている。

 

・偉大な人間となどんな人か

 コペル君たちがナポレオンの生涯に興味を持つ。おじさんはナポレオンの精力的な活動に敬意を払いながらも、「人類にどう貢献したか」という視点で是々非々で評価すべきとしている。フランス革命による人権思想の広がりを反動から守り広げたこと、「ナポレオン法典」と呼ばれる法体系を整え広めたことは人類に対する大きな貢献で、覇権のための覇権にこだわってしまった後半生は人類に対して害悪を及ぼしたとみている。圧倒的な力をもって人類に貢献すれば偉人だが、圧倒的な力で悪いことをする人もいる。一方で力がないゆえに自分にも周囲にも悪い影響を与える人もいる。「人類の進歩に結び付かない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも同じように空しい」という。

 

・人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて

  コペル君は堀川君をいじめから守ると友達と誓ったが、上級生から暴力を振るわれる堀川君たちを見捨ててしまい、後悔の念に苛まれる。

 おじさんは「自分が取り返しのつかない過ちをしてしまった」という意識が人を目覚めさせ真実に向かわせることもあるといい、コペル君が正しい道を歩いていけるという信頼を示す。

 

【感想・考察】

 太平洋戦争直前は息苦しい時代なのだと感じていたが、きちんと考え正しく生きようとする人もいたことが伝わってくる。これからも経済の形は変わり戦争の形も変わり、思想をコントロールする方法も進化していくだろう。だからこそ「自分の経験をもとにした一回性の思想から、自分自身の軸を作り出し、かつ自分が立派で高潔な人物になろうという意志を持ち続けること」というメッセージは今日でも十分に強い意味を持つと思う。

 

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