こころの旅
精神科医である神谷恵美子が、誕生から死まで人が一生でたどる「心の旅」を書いた本です。
最初は学説の紹介などで客観的な内容なのだけれど、向老期や死を迎える段階では、少し宗教掛かったような主観的な内容でした。40年以上前の出版なので内容的に古さも感じます。
正直、今の自分には合わない内容でした。数年後に読み返すとまた違う印象を受けるのでしょうか。
【作者】
神谷恵美子
【あらすじ・概要】
人生のそれぞれのステージでの「心の旅」を読み解
・妊娠期間中から乳児期
妊娠期間中の母親の意識の変遷、出産直後の乳児が周囲に「適応」していく。環境に対して働きかけ反応を得ることで「基本的信頼感」を得る。
「母親の応答の規則正しさと予測可能性こそ乳児の世界の最初の秩序であり、原始的な天国なのだ。必要なものを与えてくれる人の実在が次第に確かな事実として現れ、安心して愛し信頼できる対象として受け止められる。この最初の人間関係で大切なものを学ぶ」とする。
・幼児期
「あそび」から自分の働きかけと環境の反応を学ぶ。言葉を学び社会性を学び、人間らしさを獲得していく。
自分の体が世界の中心であったのが、自分の体を客体の中の一つとして認識し、自分を運動の主体とみなすことができるようになる。
歩くことと話すことができるようになると「自律性」が芽生え、集団の秩序と衝突する第一次反抗期が3歳前後に訪れるとする。
・学童期
6歳から11歳くらいまで、思春期前の人を、著者は ホモ・ディスケンス(学ぶ人)と呼ぶ。言語・文化・歴史などを意識的系統的に形成するのに最適な時期。生理的にも心理的にも安定した「なぎ」の時期といえる。
・青年期
思春期から21歳くらいまでの青年期には、学童期の心身の安定が崩れ始める。社会とその中における自己の位置や役割を見定め、「自己対自己」という文化が見られる。ここで初めて「人間性が開花」すると言えるとする。
青年期の後期には職業選択や結婚など、重要な選択を行うことになる。
・壮年期
年を取るほど個人差が大きくなり、壮年期や老年期を一概に語るのは難しいとしながらも、この時期には 「Generativity(生み出す力)」が最も強くなる傾向を認める。「子供を育てる」こともあるし、広く社会に貢献するものを生み出すこともある。
・向老期、老年期
55歳くらいから身体の老いを自覚するが、初期は老いに抵抗する。新しい自己像を受け入れるのがこの時期の課題であり「第二の思春期」とも呼ばれる。
健康状態、気質、経済条件等により個人差が大きいが「心の隠退」を積極的に捉える人もいる。活力は衰えても、知識や経験を統合し「知恵」という徳が得られる。
・旅の終わり
青年期や壮年期に死に直面する場合、準備もできず後に残す人への心配が苦しみを生む。
老年期に、自己を相対化し、自己の業績への執着を超克して、残された日々を大切に生きようとする人もいる。
【感想・考察】
全体として息苦しい印象を受けたが、美しいと感じるフレーズもあった。
・人の心には「よろこび」が不可欠であること。愛し愛されること、あそび、美しいものに接すること、学ぶこと、考えること、生み出すこと。
・生命の流れの上の「うたかた」に過ぎなくても、人は様々な人と出会い、喜びを分かち合い、後から来るものにこれを伝えようとする。これが「愛」であり、心の旅で一番大切な要素だと思う。
もうしばらく後に再読したいと思う。