羊と鋼の森
【作者】
宮下奈都
【あらすじ・概要】
北海道の山間の高校に通う外村は体育館のピアノの調律に立ち会い、音の景色がくっきりと見えることに心動かされ、調律師を目指す。
高校卒業後に調律の専門学校に通い、故郷の楽器店に調律師として就職する。そこでは、世界的なピアニストから指名を受けるような板鳥、以前ピアニストを目指していた秋野、外村の指導をしてくれる柳など、優秀な先輩たちに囲まれながら、なかなか独り立ちできない自分に焦りを覚える。
柳に同行して調律に行った家であった双子の姉妹の奏でる音に惚れ込むが、妹の由仁はピアノに触れることができなくなってしまう。姉の和音もピアノから離れてしまうが、やがてピアニストとなることを決意する。
【感想・考察】
物語自体は淡々と進む。主人公が特別な才能に目覚めることもない。「何に向かって努力をすれば良いかわからない」ながらも、コツコツと日々の努力を積み重ねていく。顧客から酷評され、仕事をキャンセルされるようなことがあっても「無駄になることは何もない」という思いを持ち、かなりしぶとい。平凡な青年として描かれているが、個性的な先輩たちや顧客たちとの関わりの中で成長を続ける様に、静かに励まされる。
ちなみに「羊と鋼の森」というタイトルは、「羊毛のフェルトで覆われたハンマー」と、「鋼でできた弦」のことだった。