月なき夜の幸せなこと
【作者】
赤井五郎
【あらすじ・概要】
『青い月夜の特別なこと』の続編。世界の成り立ちや、登場人物の関係を理解するためには前作から順番に読む必要がある。
翡翠教団の副高師は、独占してきた秘術を教団とは無関係の虫薬剤師が使っている可能性に気づき、調査のためにサージェスを雇う。サージェスは監視役のグレイズとともに、双一郎たちの近くに潜り込み、京子に秘術を施されているのか調査する。
意図に気づいた双一郎たちは当面遠くの街に逃げることを計画するが、サージェスたちも追跡の手を緩めない。お互いが裏をかく頭脳戦が繰り広げられる。
【感想・考察】
本書の結末は追う側のサージェスたちにも追われる側の双一郎たちにとっても悲しいものなのだが、この作品に『幸せなこと』と題した感性には脱帽する。「愛する者たちと一緒に旅立ちの準備をする楽しさ」とか「馬車に揺られながら事件の説明をし、双一郎と世界と繋がっている実感を得る喜び」だとか、「幸せ」は身近にさりげなくあるもので、脆く儚いものだと感じさせる。
ファンタジーな世界の出来事ではあるが、密室殺人や叙述トリック的な構成など、ミステリ的な仕掛けはきちんと書かれていて、そこもまた面白い。出版の多様化でこういった作品に触れることができるようになったのはありがたいことです。