精神科医は腹の底で何を考えているか
【作者】
春日武彦
【あらすじ・概要】
精神科医である著者による「精神科医が医療行為を行うときに考えていること」を書いた本。
最初に精神科医によって処方薬のクセがあることがから入る。基本知識がないと分かりにくい話題から書き始めるのはさすがだと思ったが、医師毎に処方の好みがあること、いい加減な処方をする医師もいることは伝わる。
また患者との相性について語っている。患者の立場では医者が公正な聖人君子であることを求めるが、実際には医師も人間である以上、合わない患者はいる。
精神科の技術について、基本的にはパターンを見極めることから入るという。診療しながら大体100位のパターンに当てはめ、投薬などの効果を見ながら微調整していく。
精神科医は患者の話をよく聞く必要があり、患者も聞いてもらうだけで解放される部分もあるが、患者と同じ「揺れ」を感じてはいけない。家族など近しい人が話を聞くと、どうしても同じレベルで感情が揺れてしまう。精神科医は話を聞いても診断のための情報とするだけで、話の内容について助言も説教もしない。
患者の中には精神科医に依存的になる人もいるし、医師の中にも意識・無意識によらず患者を支配しようとする人もいる。コントロールされることを「快」と感じる人もいるだろうが、どちらかというと宗教の世界に近づいてしまう。
精神の病の中でも、「うつ」は内因性であれば適切な投薬で「治す」ことができる。背景にある生活環境などによって再発しやすいということはあるが、風邪と同じレベルで治すことはできる。一方で統合失調症などは治すのが難しい。投薬などで99%は発症前と同じレベルに戻っても1%の違いが高度な精神作用には大きく影響してくる。ほとどんど以前と変わらない状態に回復したが、ビジネス最前線での熾烈な駆け引きなどでは、1%の違いが大きな差となってくる。
人が幸せを感じるのは、大きな目的を達成し世間的にも評価を受けるような成功によるものもあれば、平穏な日々を続けていけることによるものもある。患者に対して「前者の幸せだけではなく、後者の幸せもあるのだ」ということを説く必要も時にはあるが、野心的な人が多い医師の世界において偽善的な言葉となっているのを感じている。
【感想・考察】
この著者個人の見解が中心で、これが典型的な精神科医像であるとはいえないとは思うが、なかなか面白い。人格が崩壊しているような医師の話をしたり、自分自身のエゴや患者に対する好き嫌いなどをはっきり語り「医師は聖人君子ではない」ということを示している。一方で患者にとっての幸せとは何かを真摯に考え、現実にできることとの乖離に悩む姿も見える。
医者にかかるときは相手も人間だということをよく考えよう。