蹴りたい背中
【作者】
綿矢りさ
【あらすじ・概要】
うまく学校の友達と馴染めない女子高生の”ハツ”は、ハーフのモデル ”オリチャン”の話をきっかけに、同じようにクラスで浮いている”にな川”から話しかけられる。オリチャンのラジオ番組を必死に聞く にな川にもの哀しさを感じながら、「無防備な背中を蹴り飛ばし、痛がる にな川を見たい」という衝動に突き動かされ蹴りを入れる。
にな川に誘われオリチャンのライブに行った時にも、オリチャンに相手にされない惨めな にな川を見たい」という屈折した感情を持つが、友人の絹代からは「ハツは本当に にな川のことが好きなんだね」と言われてしまう。
【感想・考察】
高校くらいの多感な時代には、周囲との距離感が気になって苦しくなることもあるのだろう。ハツの周りでは友達の絹代が友人たちとの間を取り持とうともするが、ハツは一人でいることを選ぶ。
本当は周りのことが気になって仕方ない、自分がどう見られているのかを人一倍きにする自意識過剰さがあるからこそ、周囲と溶け込むことができず孤立してしまうのだろう。「自分が、自分が!」という意識を少し開放すれば、気楽に人と接することができるのに、と思う。
そういうハツに対するもどかしさを「クラスで浮いているのにクラスの人間関係を誰よりも把握している私」と表現しているのは、ストレートで面白い。
同じように友人との交わりがない にな川だが、極端な自分の趣味や、自分の素の生活環境を他人に見せることも厭わず、周囲から自分がどう見られているかを気にしないで、自然に一人でいることを楽しんでいる。
ハツが にな川に向ける嗜虐的とも言える屈折した感情は、にな川のそういう自由さに対する憧れと嫉妬が混じったものなのかもしれない。あるいは「誰かが誰かに向ける感情は、それぞれが個別に違いもので、ステレオタイプに型に嵌めてとらえられるものじゃないよ」というテーゼなのかもしれない。
軽く読みやすい文章だが、何となく心に残る話だった。