形
【作者】
菊池寛
【あらすじ・概要】
摂津の侍であった中村新兵衛は高名な槍の使い手で、その猩々緋の陣羽織と金の唐兜は、敵に脅威を味方に頼もしさを与えていた。
ある日、新兵衛と親しい間柄にある若侍が、「初陣で手柄を上げたいので、新兵衛の猩々緋と唐兜を貸して欲しい」と頼み、新兵衛は快く貸した。
新兵衛はの装備を借りた若侍は大きな初陣で手柄を上げた。新兵衛は、いつもならば「虎に向かう羊のように狼狽えている敵」が、勇み立ち十二分の力を奮ってくることに驚き、雑兵に刺され死んでしまう。
【感想・考察】
「形」の持つ影響力の強さ、所謂「ハロー効果」をテーマとした話。
新兵衛が自分の陣羽織や唐兜といった「形」に力を籠めるまでは歴戦の実績があり、実力や実績の対価としての「形」だったはずだ。
一方で若侍は「形」を借りることで実力以上の成果を上げることができた。この時点で彼の実力は半ば借り物かもしれないが、この成果をもとに実績を積み上げていけばいつかは本物になるかもしれない。
人が権威に弱いものであるのならば、使えるものは有効活用して自己の成長を後押しするものとするのは卑怯なことではないだろう。逆に現在の自分の成果もすべて実力によるものではなく、自分の肩書や経歴によって嵩上げされていることもありうると謙虚に捉えることも必要なのだろう。
ごく短い、2~3分で読めてしまう掌編小説だが、示唆に富んで面白い。