13・67
【作者】
【あらすじ・概要】
6つの中編小説の連作。香港警察で働いたクワンの人生を2013年から1967年まで遡って描く。
1.黒と白の間の真実
2013年、香港大手財閥の当主が殺された。
クワンは末期がんで昏睡状態にあったが、クワンの部下であったローは、クワンに脳波測定装置を繋ぎ、
ローは強盗による犯行に見えたが内部犯であることを見破り、さらに家族の歴史に遡り探っていく。
2. 任侠のジレンマ
2003年、マフィアを一掃しようとした警察の作戦は失敗する。
チームを率いていたローは落ち込み、クワンが励ます。
その頃、九龍地区最大のマフィアが囲う女性歌手が、対立するマフィア首領の息子である俳優からちょっかいを出され、その俳優が何者からか暴行を受け軽傷を負う事件が発生した。
数日後、今度は女性歌手が暴漢に襲われ死亡する様子がビデオにとられ警察に送られた。
二つの事件の背後でクワンがマフィアに仕掛けた罠は何か?
3. クワンの一番長い日
1997年、香港が中国に返還された年。クワンが定年退職前の最終日を迎えた日に、クワンが以前逮捕した受刑者が脱走し、以前から起きていた硫酸バラマキ事件も再発する。
無関係に見えた二つの事件だが、クワンはそのつながりを見破り、計画をつぶす。
事件後、クワンは退職後も嘱託として警察組織に残ることを決意する。
4.テミスの天秤
1989年、警察は凶悪な指名手配者の兄弟2人を追っていた。
その弟がマンションに潜んでいることを突き止め、何人かの警官で包囲していたが、
最終的に人質数名が犠牲となり、犯人も射殺された。
事件の顛末を聞いたクワンは、密告者とその真の目的を見抜く。
5.借りた場所に
1977年、香港政府の腐敗撲滅運動を主導するイギリス人男性の息子が誘拐された。
男は犯人の要求に従い、身代金を用意し受け渡しのため香港島を走り回る。
連絡を受けたクワンも追跡するが、身代金受渡しは失敗し、犯人からの連絡は途絶える。
戦々恐々として犯人からの連絡を待つグラハム夫妻のもと息子が無事に戻るが、
息子は単に課外授業で郊外に出ているだけだった。
誰が何の目的で誘拐事件を装ったのか?
6.借りた時間に
1967年、反英暴動のあった年。雑貨屋に居候する青年の視点で描かれる。
青年は隣室の住人による爆破テロの計画を聞いてしまう。
青年はアチャと呼ばれる若い警官に事情を説明し、卓越した推理力を披露しながら
テロ計画の真相を暴いていく。
【感想・考察】
それぞれのストーリーがミステリとして十分練られ面白いのだが、
時代を遡りながら全編を通しての謎も仕掛けられている。
最後の「借りた時間に」を読んだ後では、最初の「黒と白の間の真実」はまた違った風景が見えてくる。
また全編を通して香港の変化が描かれている。
文化大革命の直後、反英のうねりがあった1967年、中国への返還が決まった後、「支配階級」である英国への反感が続くが、
英国への反発を覚えながらも、英国の影響で「先進的な体制」を実現したことを誇ってもいて、「香港人」としてのプライドを持っている。
自分にとっては、尖沙咀や旺角など馴染みのある地名や、香港の食べ物など、とても懐かしい気持ちにさせられた。また香港に行きたい。