毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

お坊さんがくれた 涙があふれて止まらないお話

【作者】

 浅田宗一郎

 

【あらすじ・概要】

 16編の短編小説集。徐々に幸せを手に入れ、それを失い苦しむが、たとえ勝てなくても負けず、大切なものを見つけていくという大筋は16話全部に通じている。

 

①百日紅

 輝子は岡山の田舎で育ったが、バブルを迎える派手な景気に惹かれ上京し、結婚して子供をもうけた。バブルの崩壊とともに経済状況が悪化し離婚に至った。実家に戻ってきた輝子は、静かな古刹で「飾らない自分が一番」との言葉を思い出す。

 

②もみじ

 詩織は板金工場で働く正志と出会う。詩織も幼少のころに父親を亡くしていたこともあり、児童養護施設で育った正志に親近感を覚え、結婚し子供をもうけた。正志には親の記憶がないが「もみじを包み込むような光の中で、抱きしめてくれる人」のことだけは頭に残っていた。正志は末期の肝臓がんに侵されていたが、延命治療を拒否し家族には伏せギリギリまで働く。正志にとって家族のために働き続ける日々に一点の悔いもなかった。

 

③幸せ

 京都で生まれた加奈は同級生の涼子と大学までを一緒に過ごした。涼子は弁護士となり同じ弁護士と結婚して娘をもうけた。同じ時期に公務員となった加奈も結婚し子供をもうけたが、娘の真美はダウン症を抱えていた。

 加奈は、立派な経歴と五体満足な子供理恵に恵まれた涼子を羨む気持ちを持ち始めた。ある日、高校生となった理恵は人生に疲れ自殺を図る。涼子は母親として娘を十分見てあげることができなかったと嘆く。真美は障害を抱えながらも真っ直ぐに生き、周囲に愛を振りまいていた。真美の心が理恵に光をもたらす。

 

④一生

 神戸で終戦を迎えた美子は、ケーキ職人の達彦と結婚し、娘をもうける。神戸のケーキ屋で数十年働き続けたが、阪神・淡路大震災で達彦が亡くなってしまう。絶望にひしがれ無力感に襲われる美子だったが、いつか娘と娘婿が達夫と暮らした街に家を買い、共に生活をするよう申し出てくれる。「人間ははかなく、人生は苦しみが多い。でもその苦しにも中に点在する幸せが掛買いのないものと感じられる。夫や娘に感謝の念を抱き、美子は静かに命を閉じる。

 

⑤絆

 自動車部品の工場を経営する一雄は、死を意識し家族に何も残せない自分を不甲斐なく感じていた。「人間は死ぬときに光があるか、闇に包まれるかで、すべてが決まる」という。羽振りのいい時期があっても自動車メーカ不振のあおりを受け落ちぶれ、息子や娘にも迷惑をかけた。それでも「一雄は家族のために頑張り続けた」という妻と娘は彼を心から尊敬し愛していた。光に包まれた終わりの時を迎える。

 

⑥人生の光

 友広はその名の通り友人に恵まれにぎやかな学生時代を過ごした。だが社会人となって社会の厳しさに落ちこぼれ、リストラされてしまう。学生時代は目立たなかった涼が漫画家として大成し「自分は未来だけを見ている。同じような人間を養成する学校には興味がなかった」といい、社会から落伍した友広を蔑む。落ち込む友広だったが、いつも自分を見て、人との関わりを大事にする自分の姿勢を評価してくれた女性の存在に気づき、人生に希望を見出す。

 

⑦縁ーえにし

 子供好きで幼稚園の保育士となった美保は、幼稚園に出入るする文具業者の和也と結婚し妊娠するが、子供は死産だった。それから子供を作ることが怖くなり、妊娠適齢期を逃してしまう。子供が好きな和也に新しい人生を上げるため、美保は一人離れ別居する。一人暮らしの美保が拾った猫は「パパに会わせて」と語りかける。猫は二人のもとに帰ってきた死産した子供だった。

 

⑧希望

 男は高校時代から付き合い始めた理香子と結婚し娘の美奈を授かったが、理香子はジョギング中に心筋梗塞に襲われ、35歳で死んでしまった。理香子を失い必死で美奈を育てた男だが、美奈が紹介した恋人塚本隆二は草食系で弱々しい感じが気に食わなかったが、理香子が見守っていてくれたことを感じ、感謝して隆二を迎える。

 

⑨笑顔

 由香子は2歳の時に父親を亡くし、母親が貧しいながら守り育ててくれた。母は苦しい生活の中、由香里を大学にまで行かせた。母は辛い時もいじめられて苦しい時も、背中から抱きしめ守ってくれた。

 大学を卒業した由香子は結婚し、理奈という娘が生まれた。いつしか理奈も成長し結婚したが、母は認知症を悪化させ介護に苦しむ日々が続いた。そんな時に娘の理奈が旦那から家庭内暴力を受けていることを訴えるが、母の介護で精一杯の由香子は受け止める余裕がない。自分の不甲斐なさに涙を流す由香子を、母親が抱きしめて「お前を守る」と言う。認知症で人格が変わってしまった母だが、ずっと自分を守ってきてくれたことを思い出し、自分も娘の理奈を守り通そうと心に決める。

 

⑩空

 寿司屋で修行をしていた空は、客としてきていた千明と付き合い娘の海を授かる。寿司職人としての腕に自信を持っていた空は、師匠がまだ早いと言うのを聞かず独立して店を持つ。寿司の味は良いが接客や経営面で未熟だった空は結局店を潰してしまう。莫大な借金を抱えた空は妻と娘に迷惑をかけないよう籍を抜き一人で放浪生活をする。

 20年ほどが過ぎ、どこで働いてもうまく行かない空は死に場所を求めて故郷に戻るが、そこで娘の海と孫の大地に再開する。妻の千明は、最後まで空を信じ亡くなったと聞き、また海が自分を受け入れてくれるありがたさを感じ、改めて生きる意思を持つ。

 

⑪二人の轍

 愛子は自分の容姿にも能力にも自信がなく、地味な生活を送っていた。工場勤務の同期であった光一と付き合い結婚したが、愛子には子供を作る能力がないことが判明し、自分には人並みの能力もないことに絶望していた。光一も小説家を目指し数十年間原稿を書き続けてきたが芽が出ず、才能がないものは報われないと感じていた。

 そんなある日、光一は小説の新人賞を受賞する。光一は「この作品は愛子と自分が二人でつくってきた轍」であるといい、支えてくれた妻に感謝を伝える。

 

 

⑫手紙

 ホルストの「惑星」が好きだった父に木星と名付けられた男は旅行代理店に勤める。顧客として知り合った美花と付き合い結婚したが、バブルの崩壊とともに旅行代理店は倒産し、徐々に勤務先の条件が悪くなることに投げやりな気持ちになっていた。

 そんな折、美花は木星に手紙を送る。京都の竜安寺で聞いた「吾只足るを知る」という言葉を思い、今に感謝し木星とともに過ごせる日々に感謝していると伝えた。

 美花の思いを受け止め、木星はまたひたむきに生き始める。

 

⑬泥濘の花

 強は生まれつき片側の耳が小さい「小耳症」だった。自分の障害にコンプレックスを覚え、常に髪で耳を隠し、何をしても積極的になれなかった。高校生の時であった陽子は美しい顔立ちであったが、火傷で腕から背中にかけひどいケロイドがあることを明かしてくれたが、自分は小耳症を打ち明けられずにいた。外見の整った友人の翔には充実した人生が約束されているように見えた。

 積極的な営業ができないため退職に追い込まれた強は、翔と再開するが彼も仕事に真摯に向かうことができずホストとしてヒモのような生活をしていた。

 美しい外見を持ちながら驕らず、深い傷を持ちながら卑屈にならない陽子と再開した強は彼女からたくましく誠実に生きることを学ぶ。

 

⑭希望の絵

 琵琶湖のほとりで育った智恵は、高校の美術部で夢人と出会い、その精密なスケッチに感銘を受ける。両親を亡くしていた夢人は大学進学はできなかったが、二人は結婚し幸せな暮らしを送っていた。夢人が描くスケッチをネットに公開していると、作品を見出した人々から注文が入り始め、イラストレーターとして徐々に名前が売れ始めた。

 そんなある日、働いていた工場で事故が起こり、夢人は利き手である左手を怪我し、回復が見込めないと言われる。悲嘆にくれる夢人であったが、利き手でない右手で書いた絵は、左手で書いた時のような鋭さは無くしていたが、対象を優しく包むような緩やかな描写だった。

 

⑮光の歌

 翼は高校生の時に「光の歌」でデビューし大ヒットを記録したが、2作目以降は売り上げが伸びず、CD不況も重なり結局は歌手を引退した。翼の歌を愛し翼そのものを愛してくれた由紀と付き合うが別れてしまう。引越しなどで働く翼だが体を痛め、肉体労働はままならない状況となる。そんなある日数十年前に歌った「光の歌」がラジオから流れ、かつての自分に力づけられる。

 

⑯一緒に

 バブルを経験した私は、デザイン会社に勤める美形の利也と結婚し息子の正輝を授かった。バブルの崩壊とともに利也は職を失ったが、プライドが邪魔してどこの就職先でも長続きせず、暮らしは安定しなかった。夫婦が言い争うと正輝は声を上げて泣いた。

 そんな生活でも正輝はまっすぐ成長し大学への進学を決めたが、ツーリングの最中に自損事故で植物状態となってしまう。正輝は植物状態となりながらも目の前で前で言い争う夫婦の声を聞き涙を流す。反応を示すことはできなくても耳は聞こえて意識は残っていた。正輝への愛を伝え夫婦がお互いへの感謝を伝えると、微かに微笑みを浮かべる。事故の2ヶ月後に正輝は亡くなるが、二人は心の中で彼を生かし続けることを誓う。

 

【感想・考察】

 話のテーマは日本的な仏教説話に近い感じがする。

 恵まれない状況から努力をしてそれぞれの幸せを手に入れるが、運命のいたずらで絶望を味わう。それでも負けずに人生と向かい合うことで、流されない幸せを掴む、というテンプレートで書かれている。「足るを知る」ことや「死者も心の中にあり続ける」という考えはすんなりと心に入ってくるし、筋書きが決まっていても「家族の愛」「親子の愛」「ひたむきに生きる姿勢」は美しく、心を揺さぶる。

 それでも上述のように「あらすじ」だけを書いてもまったく感動が伝わらない。物語の命はディテールに宿ると言うことなのかもしれない。

 

 

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