ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方
【作者】
伊藤洋志
【あらすじ・概要】
一つの仕事に全てを捧げてしまうことはリスキー。まずは生活コストを見直した上で、自分の能力を向上させ、仲間と取り組めるような、拡大を目指さない小さな規模の「ナリワイ(生業)」を複数身につけて、収入源を分散することが安全だし、自分の人生を生きることができるとする。
ナリワイ10ヶ条として以下の項目をあげている。
・やると自分の生活が充実する
・お客さんをサービスに依存させない
・自力で考え、生活できる人を増やす
・個人で始められる
・家賃などの固定費に追われないほうがいい
・提供する人、される人が仲良くなれる
・専業じゃないことで、専業より本質的なことができる
・実感が持てる
・頑張って売り上げを増やさない
・自分自身が熱望するものを作る
そもそも、会社という組織で一つの仕事を生涯続けるような働き方が主流になったのはせいぜい100年未満で、それまでは農家の人でも簡単な大工仕事ができたり、工芸品を作ったり、複数の仕事を並立させるのが普通だった。
まず現代社会では生活のための固定コストが高すぎる。コストを下げて、これくらいなら暮らせるという最低ラインを明確にすることで、まず恐怖感が薄まる。
特に都会で家を借りたり買ったりするのは極めてコストパフォーマンスが悪い。空き家率の高い田舎で古い家を自分で補修して住むならば、都会の数十分の一のコストで生活することができる。田舎では仕事がないというけれど、実際は若い労働力は求められていて、大工仕事や家庭教師、ネットワークの支援など、専業では成り立たない規模だが、並立させれば暮らせるようなサイズの仕事はたくさんある。
仕事の選び方にしても一つの仕事に全力をかけ、集中して取り組むことを賞賛する雰囲気があるが、会社に依存するだけでは不安定。グローバルな競争が広がっている現代では、激戦区でも闘える「バトルタイプ」でなければ生き残っていけない。
自分で起業するにしても十分な初期投資を準備して背水の陣で臨むことが必ずしも唯一の正解ではない。例えばカフェを開くにしても、最初からフルタイムで営業すると従業員の採用などで固定費が増えるが、週末だけ営業するようなコンパクトさで始める方がリスクは小さい。
著者が実践しているナリワイの例として、結婚式のアレンジサービスがある、専業の結婚式場では規模を追う以上は効率化は不可欠だし、適正な価格で安定したサービスを供給できることは立派な企業努力だが、どうしても画一的になってしまう。ここに違和感を覚え、規模を追わず専業としないことで、例えば年に1〜2回だけ、気があう相手と協力しながら式を作っている。
このように今の状況に違和感を覚えたり、未来の姿の予言から、ナリワイの種は生まれてくる。これを小さな規模で動かし始めることで徐々に向上していく。小さなスタートであれば見込み違いでも傷は浅い。ゼロから始め徐々に力がついていくこと自体が達成感を生むし、生活への自信に繋がる。一つのナリワイが他のナリワイに繋がっていくことも多い。
【感想・考察】
著者は「そもそも本当にそうなのか?」という見方を徹底している。トヨタ式に何故を5回繰り返し掘り下げるのもいいが、閉じた内容になってしまう。「何故車が売れないのか?」を繰り返し掘り下げていっても、「そもそも車が売れないといけないのか?」という視点にはもっていけない。
そういう「そもそも」の視点から、「単独で生活できる規模の仕事じゃなきゃいけないのか。小規模の仕事を複数組み合わせるのはどうか」という提言に繋がっている。
閉じた論理を突き詰める能力も貴重だが、「そもそも」視点で、前提となる仕組みから変えていく能力も求められているのだと思う。
ナリワイという小規模ニッチな働き方の提言以上に、物事の前提を洗い直す視点に感銘を受けた。