光と影の誘惑
【作者】
貫井徳郎
【あらすじ・概要】
4篇の短編集。
「長く孤独な誘拐」
自分の子供が誘拐され、犯人から「誘拐の代行」を強要される。緻密に計画された誘拐は身代金を受け取らずに終わったが、何が目的だったのか。何故犯人は声を変えて電話をかけてきたのかがキーになる。携帯電話の使われ方や尾行のまき方など綿密に書かれる。
「二十四羽の目撃者」
サンフランシスコで売れないラーメン屋を経営する日系人ラルフ・カトーが、極端に高額の生命保険に加入した数ヶ月後に、動物園で銃撃され死亡した。保険会社の調査担当である男は、保険金殺人を疑う上司から命じられこの事件を調べるうち、オープンスペースではあったが、第三者に挟まれた「密室」でのできことだったことを知る。保険金受取人であった妻、目撃者、動物園の飼育係などに話を聞きながら、真相に迫っていく。
「光と影の誘惑」
競馬にハマった銀行員の西村は、競馬場近くの酒屋で顔を合わせる小林と意気投合する。西村は小林に後押しされ、自分が務める銀行の現金輸送の襲撃を手引きする。偶然にも奪った現金の札番号が控えられていたため、西村は小林に金を使うのを待つよう申し入れるが。。
「我が母の教えたまいし歌」
皓一は花の臨終に立ち会い、30年前に父が亡くなった時のことを思い出す。
静岡の実家に両親を残し、東京の大学に通っていた皓一は父親が亡くなったとの知らせを受け、葬儀のために帰省する。葬儀に参列した父の古い知人から、自分には年の離れた姉がいたことを初めて聞かされる。両親は何故姉のことを秘密にしていたのか、皓一は過去を調べ、戻れなくなることを覚悟し真実に踏み込んでいく。
【感想・考察】
それぞれの作品で趣向を凝らしている。テンポも良く読みやすい。それぞれ重みは違うが全ての作品で「ここを超えたらもう戻れない」というポイントで決意をする描写が共通している。
表題作の「光と影の誘惑」は途中の描写で作者の仕掛けに気づいてしまったが、小林の西村に向ける目線が「隠と陽、光と影」の両方で描写されていることに気づくと、巧みな描写に唸らされた。
最後の「我が母の教えたまいし歌」は良作。こちらも作者の意図には中盤で気づく。だが、そんな仕掛けを超えて「家族」のあり方や、ともすれば簡単に壊れてしまう人と人との関係を大事に紡いでいくことを描ききっている。